いにしてもらつた者で、貴島と言つて――」
「え? Mさん? Mさんだつて!」彼女はビクンとしたように高い聲を出し、はじめて振返つて、僕の顏をじかに見ました。「あんた、お弟子さんだつて? そう……そいじや、役者?」
「いえ……シナリオだとか芝居の演出方面の勉強をしようと思つて、……でも、まだホンのやりかけたばかりで出征してしまつたもんですから……でもMさんからは、たいへん可愛がつてもらつて―」
「M――か」と景子は、Mさんの姓名全部を呼び捨てに言つて、しばらく何か思い出すような眼つきをしていたが「フン……そうなの? そんなら、それをなぜ早く言わないのよ。あたしは又、どつかのヨタが、タカリに來た位に思つていた。ごめんなさいね」
 はじめて微笑した。笑うと鼻のわきのシワがいつそう目立つて、まるでキズのようになり、更に婆さんヅラになるが、意外な位に人の良さそうな表情になつている。
「そうMさんのお弟子さんね。そんなら、あたしともマンザラ縁が無い事も無い。フフ。いえ、別に私はあの人の弟子じやなかつた。向うは大スタアでこちらは名も無いワンサ女優だつたんだから。だけど、私、尊敬してたからね。良い人だつたわねMさんて? でしよう? 良い人だつたなあ!」
 言つている間に、ボロボロ泣きはじめたのです。びつくりしました。シワだらけのミジメな、しかも、ドギツイ化粧を半分やりかけたままの頬にタラタラと涙が流れて、悲しいよりもコッケイになります。しかし、僕は思いました。こんな場所で、こんな女がMさんを思い出して泣いている。これはMさんが死んでから流された、いろんな人々の涙の中で一番純粹なものかも知れない。Mさんは自分が死んだ後に妻も子供も、財産も著書も、その他何一つ殘されなかつた。しかし、こんな人の中に、心の底に何かを殘していられる。Mさんは、やつぱり、えらかつたんだなあ。そしてあの人のえらさは、こんなようなえらさだつたんだ。……そんなふうに思いながら僕は坐つていました。「バカね、あたし……」景子は、しばらく泣いていてから、テレてニヤニヤしながら言いました。「變に見えるでしよう? 告別式にも行かないどいて、今ごろ泣くなんて。フフ! まるで、あの人の色女だつたかと思われかねないわね? そうさ、Mさんて人は浮氣な人だつたからね。でも私なんて、こんな、昔つから芝居でも映畫でもホントのワンサでね。M
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