リさんは非常に特色のある強い匂いを持つているんです。若い女はオシロイや香油などの化粧料の匂いのために、似たような匂いの人がウンと居ますが、ルリさんはあまり化粧はしないと見えて、ハッキリとそれがかげるのです。スモモの花の匂いにいくらか似たようなフックリと重い匂いです。それが僕には、イヤで無い匂いでした。と言うよりも、僕には抵抗することのできない匂いでした。そのためです。ルリさんと連れ立つての歸り途で、ルリさんに對して變なことをしてしまつて、ルリさんから憎まれるような事になつてしまつたのは。
 しかし僕は、ルリさんに、なんにも惡い事はしていません。今こうしてルリさんを思い出していても、なつかしくこそあれ、ホントの意味でルリさんに對する僕自身のした事について、惡い後味は何一つ無いのです。ルリさんが今後幸福になられることを僕は心から祈つています。

 恥かしい事を、思ひ切つて洗いざらい書いてしまいました。すこしホッとしています。これから僕はあなたに對して、やましい氣持無しに手紙が書けます。今日はこれでやめます。
 今、外では雨が降りつづいています。靜かな山の温泉宿が雨に煙つてすべての物音を消しています。
 もう僕の腿のキズもほとんどうずきません。二三日中に僕は此處を出立します。その女を搜しに行くのです。ホントに、おかしな、人から見たらキチガイじみた事だろうと思います。それに搜し出せるか出せないかほとんど望みは有りそうにありません。しかし今の僕には、それをする以外に何もする事が無いのです。いつまで、そうして歩くか、たとえ遂に見つからなくても、僕はバカみたいに、あちこちするでしよう。あなたの書いて下さつたリストの十五人の女の中で六人が東京附近で、三人が地方で、あとの六人が住所不明になつています。住所の書いてあるのが九人、その中の六人が東京や東京附近で、三人が地方になつています。住所の書いてない六人はあなたも御存じないのだろうと思います。それらは、さしあたり搜す當てが無いのですが、しかし、住所のわかつている人たちも、戰爭中から戰後へかけてもとの所に居る人は少いと見なければならないでしよう。中には死んだ人もいるだろうと思います。搜すのは容易なことでは無いでしよう。
 しかし僕は先ずこの九人の人たちをハジから搜して見ます。

        32[#「32」は縦中横]

 馬鹿!
 
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