僕の身體の下に死んだようにジッとしていました。その顏が僕の鼻の先きに、ホンノリと浮んでいました。線の細い、やせがたの面長の、美しい顏を見たような氣が僕はしたのです。間も無く默つて起きて、どこかへ行きました。考えてみると最初から、女はズッと默つたきりで、一言も口をきいていません。どこの何と言う、そしてどんな女だろう?……僕は、なにか虚脱したような無感覺な氣持であおむけに寢ながら、無意識のうちに女が戻つて來るのを待つていたようで、そうなれば女の正體もひとりでにわかるだろう事を豫期したやうです。しかし女は、いつまで經つても戻つて來ませんでした。そのうちに、とつぜん僕は耻かしくてたまらなくなりました。こんな所で見も知らない女とこんな事になつたことも、その相手を又待つているという事もです。カーッと全身がほてつて、とてもガマンが出來なくなつて來たのです。このまま歸つてしまつては、いけないような氣もしたのですが、とても一刻もジッとしてはおれなくなつた。
 それで逃げ出したのです。枕もとを手さぐりすると僕の洋服がそろつていたので、それを順序もなにもメチャメチャに着けてから、暗い中を四五歩行くと壁に突き當つたので、壁に添つて手さぐりで横に歩くと、出入口のフスマらしい箇所が有るので、そこを開け、廊下に出て、壁を傳つて三つばかり曲つて行くと低くなつているので降りるとタタキ。入つて來た時の心おぼえがいくらか殘つていたのか、タタキを左手へ四五歩行くとドアが有つて、引くと直ぐ開きました。僕がタタキに降りた時に、すぐわきの部屋で人の氣配がして、女の聲が何か呼びかけました。最初の中年の女のようです。しかし僕は答えませんでした。女にも僕を引きとめる氣は無いようです。その氣があれば、勝手を知らない僕がマゴマゴしている間に、それが出來た筈です。後で考えると、どうも、最初から先方では僕が歸りたくなつた時に勝手に歸られるように、はかつてあつたらしい。
 僕があの時もうすこし落ち着いていれば、あの家がどんな家で、どこに在つて、そして僕の相手になつた若い女が何と言う女か――どうせハッキリした事はわからないにしろ、或る程度の手がかりになる位のことは掴んで歸られた筈です。しかしあの時はただもう人から顏を見られたり言葉をかけられたりするのが耻かしくて、ただもう一刻も早くその場から逃げたい一心で、そんな事を考える餘裕は
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