ために復讐をする氣だつたのです。ところが、あの晩、杉田のあとから壕の外へ出て行つた僕の氣持は、實は國友の連中から殺されてもよい氣持でした。生きているのが、すこしめんどうくさくなつていたのです。
 いや、そう言つてしまうと、すこしウソになります。そうではありませんでした。生きているのがイヤになつていたのは、あのしばらく以前までの事で、――その事で書きます。――特にあの晩は不意にあなたが來て下さるし、みんなで酒を飮んだりしているうちに、僕は非常にうれしい氣持になつていて、とても幸福でした。戰爭後、はじめてスナオな自分に立ち歸れたような心もちでした。そして久しく考えていた私の本心を今夜こそあなたに打ち明けてあなたの御意見を聞き、又それについていろいろ教えてもらいたいという氣になつていたのです。しかし杉田や久保がそばにいますし、久保はまあかまいませんけれど、杉田にはどうしても聞かせたくない話なので(――いえ杉田は實に良い男で私の好きな奴です。しかしキッスイのヤクザで僕などとはまるでちがつた世界に生きている人間なのです)もうしばらくもうしばらくと思つているうちに、あんな事が起きてしまつたのでした。つまり言つて見れば、生きているのが張り合いがあるようになるかも知れないと言う氣が微かにした、はじめての晩に、僕は死ななければならぬかも知れなくなつていたのです。實に皮肉な、妙な氣持がしました。しかし、すぐに諦めがつきました。おれと言う人間は、いつでもこうなのだ。いつでも、事がチョット明るく、うまく行きそうになると、トタンに根こそぎ叩きこわされる運命になつているのだ。いいじやないか。生きていたつて、どうせ今俺の考えていることなど、まるで夢のような事かもわからないのだ。死ぬのもサッパリしていいだろう。……そう思つたのです。そして壕を出て行つたのです。
 しかし、つい、死ねませんでした。こうして生きて、温泉につかつたりしています。僕は今H――温泉に來ているのです。
 黒田策太郎は前から僕に言つていたのですが、荻窪で襲撃された後で、どうしても半年ばかり身をかくしてくれと言つて、かなりの金を僕にくれました。このままでいれば殺されるかも知れないからと僕の身を考えてくれたためもありますが、同時に、僕があのままで居ると、自分の組と國友の方との關係が益々もつれて惡化する恐れがあつたからです。黒田はそれ
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