の敵にしていじめるのは、當らないないと思うがどうだろう? 可哀そうじやあないだろうか? 君達は、いわば、好きでそうなつた人達だ、貴島は追いこまれて、仕樣ことなしにそうなつた男だ。可哀そうだと思つてくれないもんだろうか?」
「………あなたの言う通りかも知れない。貴島という男のしている事を見ると、必ずしも黒田組の爲にと思つてしているとばかりとは思えない事がありますからね。こんだの一件についても、黒田んとこのいい顏のやつで、格別わけもないのに貴島から斬られた奴がいるんですよ。………私に對しても貴島は別に敵意は持つていないようです。する事がデタラメなんだ。キチガイだと言つてる奴もいます。………追いこまれた人間だと言われれば、わからない事あないような氣もします。私は別に含む所はありません。然しそれとこれとは別でね、私んとこの連中は、黒田が相手にならなきやあ、仕方がないから貴島をとりつめる以外に仕方がないという腹だし、もう今となつては、私が何か言つても、どうにもならないかも知れませんね。川の水が流れるようなもんで、こんなこたあ、あなたもとつくに御存じだ」
 昔から國友という男は正直な男であつた。腹に無い事は絶對に言わないし、一旦言つた事が違つたりもしない。それを知つているので私は私としての精一杯の氣持をこめて貴島の爲に話した。それに對して國友ははつきりした返事はしない。然し私の意のあるところを充分理解したらしいところがあつた。次第に陰氣な誠實な眼つきになつて、しんみりと口數も少なくなつた。このような種類の男について誠實などという言葉を使うと人は異樣に感じるかもしれぬ。しかし私の知つている限り、他の連中のことは知らず、國友大助ほど誠實な人間は、それほど多くは居ないのである。私の頼みは七八分通り相手の容るるところとなつた氣がした。然しその時、思いがけない、まずい事が起きてしまつた。
 出しぬけに綿貫ルリが飛びこんで來たのだ。

        23[#「23」は縦中横]

 綿貫ルリが私の家を訪ねて來て案内を乞うたりしないのは、いつもの事であるが、この日は「先生今日は」も言わないで、いきなり、しめきつて話していた書齋のドアを默つてスッと開いて入つて來た。まるで今まで隣りの室にいた人のような具合だつた。私も國友も言葉を停めて見迎えたが、この前見覺えのある絣の防空服を着て、ポキンポキン
前へ 次へ
全194ページ中88ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング