した。自分の思うことの四分の一も口では言えないのです。馴れていますから、別に苦しくはありませんが、人に對して惡いなと思うことがよくあります。
 文章に書いても完全には表現できませんけれど、でも、口で話すよりは、すこしましです。
 今、ヘンな所にたつた一人で居りまして、誰からも邪魔されません。危險があるので、外へ出て行けないので。いえ、別に大した事ではありません。僕自身は、なんにも危險なんか感じていないのです。ただ、周圍の人たちがそう言うのです。強いてそれを押し切つて外に出て行く用事も別に有りませんから、ボンヤリして此處に坐つているのです。しめ切つた窓の外をハシケの汽笛の音が、時々通り過ぎて行きます。ネバネバしたような匂いが板壁のすき間から這い込んで來ます。これはアヘンの燒ける匂いです。しばらく前まで、この匂いがして來ると僕は頭がクラクラしましたが、今は、好きになりました。これを嗅いでいると今までスッカリ忘れていた自分の小さい時分の事などを、ヒョイヒョイと思い出すことがあるのです。とにかく、ヒマでしようが無い位に時間があります。一つには、そのタイクツを埋めるために、こんなものを書くのです。よつぽどお暇の時に、極く輕い氣持で讀んでください。

 でも僕は、あなたに何を語ろうとしているのでしよう? それから、なぜ、あなたに對して僕は語らなければならないのでしよう?
 理由が無いことはありません。Mさんの事をもつとくわしく知りたいと言うことです。そしてMさんの友達や知つていられた人達のことを、なるべくたくさん僕は知りたいのです。その譯は、あとで聞いていただきます。とにかく僕には、その必要があるのです。Mさんの友人の方々の中で、Mさんと一番深い所でつながつていた友人の一人が、あなたなんです。その事は生前のMさんが幾度か僕に話されたので、僕は知つているのです。Mさんは、時によつてあなたの事をケナされました。「あの男は馬鹿だ」と言つて、ペッとツバキを吐き出された事だつてあります。又、時によると、あなたを世の中で一番正直で立派な人間のように語られる事もありました。かと思うと、あなたほどエタイの知れない、冷酷な、憎むべき動物は居ないと言つて、憎み切つているように語られました。そして、そんなふうに、いろいろにあなたを語られるあらゆる場合に――憎々しい口調で語られる場合にもです、Mさんが
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