んですよ。唯單に、造形的な均整と言うだけから言つても、ほとんど理想に近いんです。千人に一人と言いたいが、日本人の間では一萬人に一人も居るか居ないか、あぶない。そう言うんですよ、Nが。Nと言うのは、繪描きになりそこなつて寫眞屋になつた男でインチキ野郎だけど、女の事はわかるんだ。ひでえ助平でね。殘念ながら、これだけの身體の女あ、平民の血筋にや、チョッと現われて來ないと言うんですねえ。シャクだけど、この代々の大ブルジョアだとか、古くから續いている貴族共が、世の中の美しい女を選り取りにして、子を生ませる。その子が又、美しい男や美しい女を選り取りにしてと言つたふうに――つまり一種の自然淘汰だなあ。それを永い間續けて來た血筋にや、かなわねえと言うんですね。實際、シャクだな。ロシヤだとかフランスの革命の時に、貴族の娘なんかを掴まえて、やつつけちやつたりしたのは、そう言つた事に對する復讐心が、たしかに有るんだな。僕だつて、ルリ君の裸を見た時に、たしかに、そんな風なものを感じたもん。そうだ、復讐心とは言えないけれど、つまりです、何代か前の僕の祖先の何人かの男たちが、自分たちの惚れた美しい女を、貴族やブルジョアに横取りされて來た、そのウラミ――その男たちのウラミみたいな氣持が、僕の中にムラムラッとね。コンチキショウ! と言う氣がしたなあ。Nの野郎なんぞ、初めてじやないのに、齒を食いしばつて、ヨダレを垂らしているんだ。それほど美しいんですよ。手も足も胴もスラリッとして、まるで、ギリシャ建築の白い圓柱のように、伸びているんです。その割に胴は短かくつて、何ともかんとも言えない丸味を持つているんだ。痩せているように見えるが、痩せてはいないんですよ。スーッと、うねつているんです」
三四日たつて、私を訪ねて來た佐々兼武が、室に通つて坐つたかと思うと、例の人をいくらか嘲弄するような調子と人に取り入るような愛嬌のある調子とを突きまぜた話し方で、時々舌なめずりをしながら、ペラペラとやり出した。話しながら彼がポケットから出して見せてくれたキャビネ版の寫眞が、私の膝の前にあつた。全裸體の女が長椅子に横になつて、おかしな姿勢をしている寫眞で、一種の猥畫の類だが、女は一人だし、引きしまつた均整のとれた身體をしているために、それほど猥せつな感じはしない。よくあつた兵隊慰問用の寫眞を上等にしたような物だつた。女
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