、すなほが一番強いんだよ。私みたいにこじらしちや駄目! こじらしちや駄目! ウーツ、もう一杯。
より (香代の気持がヒシヒシと解つて、涙声で)もういいよ、香代ちやん。
香代 注げよ! 注がないかつ! アハハ。よろしい、それでいい。その代り、お別れに私が歌を唄つてあげる。ヤーレと(唄ふ。木挽歌)坑夫女房にや、なるなよ妹、ガスがドンと来りや、後家ぐらし、やれチートコパートコ。
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(すゝり泣くより子。……表から志水が仕事着のまゝ新しいシヤベルを五六丁荒縄でしばつたのを担いで入つて来る)
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志水 う、えらい景気だなあ。馬鹿にいい声で唄つてゐると思つたら、香代ちやんか。うまい筈だ。
香代 そら来たよ、よりちやん! ウワーイ!
より (真赤になつて)いやつ! 志水さん、あんた現場ぢやなかつたの、今日は?
志水 本社の用度課へこれを取りによこされたんだ。これから又現場へ戻るんだが、うどんでも一杯食つて行かうと思つてなあ。
香代 志水さん、あんた、よりちやん好きだろ? え、好きだろ? 返事しろよ、好きだろ?
志水 なんだよ? 驚ろいたなあ。
香代 好きなら、早く、おかみさんにして一緒になつておしまひよ! よりちやんの方なら、もう、とうにあんたに首つたけ。いやもう背が立たない。この辺まで! ブクブクブク助けてくれつ!
より 馬鹿! (てれて調理場へ行く)
志水 (笑ひながら四辺を見廻して、カバンやバスケツトを見つけて)どうしたんだい、誰かどつかへ行くのか!
より ……(調理場から)香代ちやんが、遠くへ行くのよ。一時半の汽車で。当分お別れよ。
香代 お香代さんの、お住み替へだい! アハハハ。倍になつた借金を、此の首つ玉へ、おもしに附けて、西の海へドブーン!
志水 さうか。……そいつは、なごり惜しいなあ。身体に気を附けて――。
より (出来たうどんを志水の所へ持つて来ながら)はい。(しみじみとした間。……遠くで列車の音、汽笛)
志水 ……(うどんに箸を附ける)あゝ、うどんを食ふと留公の事を思ひ出すなあ。留公、今頃どうしてゐるかなあ。(ハツとしたより子が、それを言ふなと、しきりに志水に眼顔で知らせる)国へ帰つて百姓やつてゐるかなあ、止しやいいに――。(より子がたまりかねて志水の裾を引つぱつて、香代の方へ注意を向ける)うん?
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