、どうしたもんでしょう、くらやみの。と泣きつかれて見りゃ、ははんそうかね、で見過していられるかい? その上一宿一飯、俺あ渡世に親分も子分もねえ風来坊だが、ならずもんの義理あ知っているんだ。……話に聞きぁ、お妙さん、お前も甚伍左てえ、えらもん[#「えらもん」に傍点]の娘だ、此処のユクタテ多少はわからねえことあ、あるめえ。何も云わずに出しねえ、真壁の仙太郎!
お妙 (サッと青くなり段六を見て)……そ、それでは、あのお金は?
段六 へ、へい、……(思い当ることがあって恐ろしくなりガタガタ顛える)
長五 (二人の様子をギラリと見て取って)見ろ、いねえなんどと白を切っても駄目だ。出せ!
段六 そりゃいいがかりと言うもんだ。この家には嬢様と子供衆の外には男気と言っては俺がたった一人ぎり。その俺もホンの一月ばかり前に頼まれた用事があってここさ来て、嬢様の苦労を見るに見かねて、こうしているのでがす。
長五 くでえ! じゃ踏込むぜ、いいなあ?
段六 聞きわけのねえ! 何もかも言ってしまいますべえ。お前さん仙太公の兄弟分か何か知らねえが、俺あ真壁で仙太公とは餓鬼のときからの友達だ。去年の暮の晩方、仙太公が
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