から、おとなに寝てしまうた。寝ないのは咲ちゃだけよ。咲ちゃはキイキが悪いねえ。おまんまは食べられない。食べる? 食べるの、咲ちゃ? (と肩越しに振向くお妙の顔を、ヤーンとまた激しく泣き出したお咲が小さい平手で撲る)……おおよしよし、食べたくない、咲ちゃは食べたくないの。そうじゃねんねしようね、咲ちゃは善い子だねえ……あああ、ねえ……(と意味のない声を出して子を揺さぶり歩きながら、うるんできた眼尻を指先でこすっている。突然、奥遠くで三、四人の男の声が走りながら何かけたたましく叫び交す。それが消えたと思うと、遥かに遠くの方でドーンと、微かな地響を伴った大砲の音。ギクッとして歩みを止めて立つお妙。音でチョッと泣声を止めたお咲が、前よりも更に激しく泣き出す。お妙再びあやしながら歩き出す。ギクッとはしたものの大砲の音を聞くのはこれが初めてではないらしく、不安になっただけで大して驚いてはいない。また大砲の響。……)おおよし、怖くはない、怖くはないのよ。ドーンって。ドーンって鳴るねえ。ドーン、ウルルルル。ねんねするのよ、咲ちゃは善い子だ。さ、ねんねよう、おころりよ、筑波のお山に火がついたあ、火がつい
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