れたのでよぎなく買ったこの場、とどめまで刺しちゃ冥利が尽きます。私が立去りゃ今の連中が来て引取り、助かるもんなら助かって貰いてえ。
今井 加多先輩、これは賊です。斬ったら?
加多 まあ、よい! 刀を納めたまえ。
仙太 どうぞ、まあ、お見逃しなすって……。
加多 殺したくはないのだ、はよかった。ハハハ。今井、君もやれたらこの男にかかって見るか? 斬りたくないと言って君も斬られるぞ。何しろ、出来る。
仙太 ご冗談を。じゃ、ええと、ご大切のお腰の物よごしまして相済みません。お返し申します。へい、何ともはやありがとうごぜえました。(刀を手拭でザッと拭き柄をも拭いて鞘に納めようとするが、右手の指がこわばってしまい、柄にねばりついて離れぬので驚いて振ったり、ひねったりする)おお、こいつあ!
加多 アハハハ、拙者のは少し重い。手に合わぬ刀を使うと、よくある奴だ。どれ。(と仙太の右傍へ行き、ウムと言って肱の辺をタッと一つ叩く。刀が仙太の手から離れる)
仙太 (落ちそうになった刀を受けて鞘に納め)では。恐ろしく結構な代物で。お蔭で助かりました。お礼を申し上げます。(と加多を初めてよく見詰めて、少しびっく
前へ
次へ
全260ページ中75ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング