たくねえ、殺生はしたくねえのだ。人を殺したくねえ、きこえねえのか! おいら……。
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(みなまでいわせず左手奥の木の下の闇の中から抜身、袷、すそ取り、たすき掛け、三十七、八の代貸元、下妻の滝次郎、バッと飛出して来る)
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滝次 やかましいやい! 口がたて[#「たて」に傍点]に裂けやがったか! 殺したくねえと※[#感嘆符疑問符、1−8−78] なけりゃ此方で殺してやらあ。それ、ぶった斬ってしまえ! (同時に博徒等七人抜きつれてザザッと飛出して来る。皆歯を喰いしばっていて無言である)
仙太 (後すざりながら、右手を突出して)待った。仕方が無え、相手になる。相手になるがそういうお前さんの戒名承知して置きてえ。
滝次 聞かしてやらあ。下妻の滝、当時北条の喜兵の名代人《みょうだいにん》だ。
仙太 北条の喜兵の? そして上村の弥造親分とは?
滝次 弥造は俺の兄貴分だ。
仙太 ……それ聞いて少しは気が楽だ。もう一度いうが、俺あ人は斬りたくねえんだぞ!
滝次 音《ね》をあげるのは早えや! やれっ! (と八人がザッと抜刀で半円を作って踏込んで来る。仙太折れた刀を
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