貸してある貸金の証文も持参しろといってあった筈だが持ってきたか?
男二 へ、へい。何で、何でござります。急なことで手が廻りませんで、あり合せのものだけをとり敢えず持参いたしましたが……(懐中より幾束もの書類を取出す)
隊一 出せ! (それを取って、見もしないでべりべり破って竈の火にくべてしまう)ざまを見ろ! (男二それらの書類の燃えて行くのを見てハラハラして思わず走り去ろうとするが隊士を恐れて走り去れず、アッ、アッ、アッと悲鳴をあげる)
隊二 (それを見て思わずふき出しながら)おい、ここで焼いてもよいのか?
隊一 構わん、金だけ持たせてやれば沢山だ。
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(この時、揚幕より走り出してくる仲間姿の男。天狗組より江戸へ牒者として入り込ませてあった士である。無言で走って本舞台へ)
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隊二 (これを認めて)おお井上でないか! また、変った姿で、何処へ行っていた?
仲間 おお、江戸だ。諸先輩山上か?
隊一 どうだ、江戸の形勢は?
仲間 面白くない。(早口に)市川・朝比奈などの走狗、書院番士にいた例の吉村の軍之進なあ、小策士め、彼奴などが中心になって策謀
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