ヒョックリ俺のところへ来て、こちらの嬢様のところまで、自分は追われていてどうしても行けねえからお前代りに使いを頼まれてくれというて用事を頼んだ。そして自分はその夜のうちに行く先もいわずに何処かに行ってしまうた。それっきり俺あ仙太公にゃ合わねえのでえす。俺あそいですぐにも来ようとしたなれど、丁度その一日おいて次の日だ、お前さん知るめえが、仙太公も俺も一所懸命で捜していた仙太の実の兄きの仙ヱムどんが見つかったのだ。見つかりは見つかっても死んで見つかった。殺されていたのだ。それまで何処にウロウロしていたのか、仙ヱムどんは結城様の藩兵につかまって、いやおうなしに縛られてさ、あんでも、天狗退治の軍《いくさ》の仕度の軍夫に使われていたて。それをあんでも後で聞けば天狗党がやって来て佐分利の縄手で、兵糧米の俵かついだまま軍夫を三十人からブチ斬って米持って逃げたて。その斬られた軍夫の中に仙ヱムどんがいたのでええす。それを引取りに行くわ、後始末をする。それから自分田地の段取りもつけとかなきゃならず、あれやこれやここへ来るのが延び延びになって俺あヤット一月前にやって来たて。仙太公のありかがわかれば、俺達こそ会いてえ、人に訊ねたりして捜しているぐらいだ。全体……仙太公という男は因果な男だて。そうして仇だなんどつけねらわれるかと思えば、あれ程恋いこがれていた実の兄が殺されたのも知らねえで、何処をホッツキ歩いているのか。つまらねえバクチ打ちなどに……。
長五 恐ろしくベラベラ喋る野郎だ、もういい。おいお妙さん。この男のいうことあ定かね?
お妙 それに違いございませぬ。私もおっしゃるように甚伍左の娘、嘘は申しません。また、あなたがそうして仙太郎さんを追いかけて、その子のために仇をと思っているお心持もわかる積りです。嘘を言って何になりましょう。
長五 ……よし、信用しよう。じゃ俺あこれで出て行くから、もし今後、仙太がここにきたならば、くらやみの長五郎がこうこうだと、男なれば逃げかくれはするな、長五郎いくらふだんはズボラでも、性根までは腐っていねえ、お前にゃドスを掴んじゃかなわねえことあわかり切っていても、するだけのことあしてえからと、忘れねえでいってくだせえ。大きにおやかましう。(刀を納めて、戸の方へ出て行きかける)
お妙 あ、チョィト、長五郎さんとやら。
長五 なんですい……?
お妙 その背中の
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