カと四、五歩、土間から上りがまちに土足のままの片足をかけて、お妙を見、段六を見、それから家の中をジロジロ見廻している)
段六 (男の背中の子供を認めて)ああ、いけねえ、お前さま、子供さんを預かるのは俺がおことわり申します。いいえ嬢さま、あんた口をきいてはならねえ。一言でも口をきいたが最後、かわいそうになってしもうて、またぞろその子ば引取ってしまうのは、あんたの気性では、わかり切ってるで。口きいちゃなりませんぞ。これ、何という方か知らねえが、ここへくるのはよくよくのことだろうけんど、どうぞまあお断り申します。現在十一人の子供衆だけでも嬢様あ朝夕泣きの涙の絶えたことがねえ、この上に子供衆がふえたらば、嬢様あ、死んでしまいなさるて。それでは、あんまりムゴイというもんだ。ここんところは推量して、つらいこんだらうが、そのお子はそちらで育てて下せえ。さあさ、頼むから何もいわずに引取って貰いてえ。(と男を押戻しにかかる)さあさ、頼みだ。
男 (段六から胸を押されても動かず)おい、真壁の仙太郎を出してくれ!
段六 ふえい! な、な、なんだって! (お妙もエッと言って、二人、驚いて男を見詰めている)
男 驚くことあねえ。真壁の仙太を出せというのだ。
段六 (急には返事もできず、お妙と顔を見合せたり、男をマジマジ見詰めたりした後)……へえ。……お前様、どなたかねえ?
男 どなたもこなたもあるものか。(と頬被りをバラリと取る。くらやみの長五郎である)おい、お妙さん、もう見忘れなすったかね?
お妙 あっ、取手で仙太郎さんと一緒にいなさった、お前様は……。
長五 そうだ、その時の長五郎だ。兄弟分の長五がやっとたずねてきたんだと仙太にそういってくれ。早くしろい!
段六 仙太公はここには居ねえ。が、お前さん、仙太公に会って何の用があるだ?
長五 斬るのだ。
お妙 え、斬る……?
長五 おおよ、ぶった斬るんだ。出せと云ったら早く出せ!
段六 き、斬るの突くのと、お前、そ、そんな、どういう訳で、そんな乱暴――?
長五 訳? フン、訳もヘチマもあるものか。仙太はこの子の親の仇だ。及ばずながら長五郎助太刀で仙太の首を貰いに来た。
段六 お、親の仇だと? そ、そ、それはまたどんな訳合いか知らねえけえど……?
長五 知らねえなら引っこんでおれ。土用の鮒じゃあるめえし、いちいち口をパクパク開いてびっくりしてい
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