五戻って来て、それを見送る)喧嘩となりゃ江戸で鍛えたあんさんでえ、この辺の泥っ臭え奴等に負けてたま……お、居ねえ、弱いのも弱えが、逃足も早い。アハハハ、いい気持だ。見ろ、あにき、半助親方ドスを担いで逃げて行かあ。
仙太 (右奥を眺めやりつつ)ウーム。
長五 どうした? 何だ? よく唸る男だぜ。(自分もそっちへ行き眺める)ほう、あれ、あれ! 後から後からと川へ落ちてら。(水音。人々の騒音)何てまあ馬鹿な百姓共だ。後から押されて押されるままにゾロゾロ川へ落ちる奴があるか! お! あれ! しかし無理もねえ、両側はビッシリ家並で、後から押す奴は橋が落ちたことあ知らねえのだ。
仙太 (思わず大声で叫ぶ)おーい、いけねえ。橋が落ちているんだ。押しちゃいけねえ!
長五 すぐ鼻の先で怒鳴っても聞こえねえのが此処から聞こえるもんけえ! (いわれて気づき仙太黙る。呆然として眺めている。……間。奥の騒ぎ声。水音。……間)
長五 ……兄き、見ろ。兄きは先刻、これが百姓だ! といった。ところが、あれも百姓だ! 馬鹿な! 阿呆でフヌケで、先に立っている自分達の仲間が川へドンドン落ちているのもご存じねえで、ただ押しゃいいと思っている。手も無く豚だ! あれが百姓さ! フン、俺も百姓になるんだなんぞと無駄な力こぶを入れるのは止しな。
仙太 うぬっ! (いいざま刀に手をかけ腰をひねる)
長五 (飛びのき)オット、またけえ? アハハハ、のぼせるなよ、兄き。じゃ、あばよ。俺あこの辺で消えた方がよさそうだ。達者でいねえ。そうと気がついたら当分俺は筑波の賭場だ、待っているからやって来ねえ。(ドンドン左手へ行ってしまう)
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(仙太それをボンヤリ見送っていた末、近づいて来る騒ぎの音に、再び橋の方向を振返って見て、やにわに町の方へ駆け出して行きかける。その鼻先へ殆どブツカリそうに町の方から四五人の手先に追われて悲鳴を上げて逃げて来る前出の女房達と子供等、前にいなかった女や子供も四、五人いる。お妙は頬被りをむしり取られ髪を乱しながら子供達をかばいつつ)
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手先 待たんかっ!
仙太 お! 先刻の衆だな、よし! (と女子供をかばって手先等に向って大手をひろげる)何をしやがる! 女子供、足弱に対して変な真似をすりゃ、俺が相手だっ!
手先一 狼藉者お召取りだっ! 退けっ!
手先二
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