仙太と長五返事をせぬ)
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子分二 おい、何だといっているんだ? (二人返事をせぬ)……この辺に見かけねえ面だが、今日|出張《でば》りの外手《ほかで》の者じゃ無さそうだ。何だ?
子分三 旅人らしいや。なあおい?
仙太 へい。今日のところ、お見こぼしなすって。
半助 ウロウロしていねえで怪我のねえうちに行きな。
長五 へへへ。
半助 それとも、まさか上林の弥造どんち[#「ち」に傍点]のかかりうど衆じゃあるめえ?
仙太 へえ? 上林の弥造?
半助 今日は弥造どんが捕親《とりおや》だ。そいでお前さん方も助《す》けに出たというのででも……?
仙太 え! そいじゃ、お前さんは?
子分二 手前達、モグリだな。北条の喜平身内、上林の弥造貸元の飲分けの弟分で佐貫の半助親方を知らねえような奴あ、この辺じゃモグリだぞ。
長五 さてはお前が半助か。どうりで、ニョロニョロした面あしていやがる。ご冗談、モグリはそっちだろう、アハハハ。(この罵言に四人呆れかえり、次に子分達怒声を発して長五に襲いかかろうとする)
仙太 おう、待ちな! (とピタリと縁台の端に片手をかけて小腰をかがめ)ごめんねえ。佐貫の半助親方とわかりゃ、往来中で失礼さんだがご挨拶がしてえ。
半助 挨拶だ? フン、いくら利根を此方へ越したからって、佐貫の半助、てめえちみてえなどこの馬の骨とも知れねえ旅烏の冷飯食いの口上を受ける義理はねえ。生意気なことを並べていねえで、足元の明るいうちにサッと消えろ。
長五 なにをっ! この石垣ヅラめ!
仙太 待て。いや、そっちに義理があろうとなかろうと、弥造の兄弟分と聞いちゃ素通りならねえのだ。ま、控えて下せえ。あっしゃ仰せの通り渡世に入って日の浅え冷飯食いで、はばかりながら生まれは御当地、当時……。
半助 やい、やい、やい! いい加減にしろい、佐貫の半助を前に置いて、名も戒名もねえ三ン下奴の手前等が、相対《あいたい》仁義もすさまじいや。たってとありゃ川を渡って佐貫の方へ這いつくばってやって来い、草鞋銭の百もくれてやらあ。
仙太 その佐貫の半助に少しばかりいいてえことがあるんだ!
半助 何を! 何だと?
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(そこへバタバタと町の方から走ってくる町方手先。走り過ぎようとして半助等を認める)
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手先 おお、佐貫の親方衆じゃありませんか
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