取るのが狼になるか虎になるか、それだけのことよ。糞面白くもありはしねえ、勝手にしろさ。
仙太 まだいうのか、長五?
長五 何度でもいうぞ。お前は阿呆だ。夢を見ている阿呆だ。先程はお前に睨まれてギックリしたが、今度あ怖くはねえ。
仙太 (立上りかけるがフと自ら顧みて)ウム……くらやみ、もうお前、行ってくれ。(下を向く)
長五 (いいつのる)そうだろうが! 世の中が立直しがあるとか何とかで変にゴタゴタとグレハマに[#「グレハマに」は底本では「グチハマに」]騒ぎ出したなあ今日や昨日のことじゃ無え。方々で飢饉凶作、打ちつづいて、食えねえ人間がウヨウヨしているのも、五年や十年のことじゃねえぜ。下々の民百姓によく響いて来るものならば、もうトックの昔に響いて来ている筈だ。それがどうだ! おおそれ、遠いところを捜すことあねえ。今聞えて来るエジャナイカの叩きこわしは何のための騒ぎだい? 此処を通るという一揆だ! みんな虫のせいやかん[#「かん」に傍点]のせいで冗談半分にやっていることなのか? 大違えのコンコンチキだろうて! みんな民百姓下々の食えねえ苦しまぎれのなす業《わざ》だ。真壁の、それを……。
仙太 (急に立って[#「急に立って」は底本では「束に立って」])ええい、まだいうのか! こ、こ、この(思わず左の手が腰に行っている。一足パッと飛下って仙太を睨んで立つ長五郎。……間……ヒョイと自分が何をしようとしていたかに気づく仙太、気を変えて傍を見るが、胸中の欝屈のはけ口を見出し得ない焦立たしさに、黙って茶店の前を彼方へ歩き此方へ歩きはじめる)
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(花道より袋をかつぎ、手拭で頬被り、すそをはし折ったお妙出る。その前後を取巻き、すがりついて互いに手を引き合った八人の男女の子供達――餓え疲れて眼ばかりキョトキョトさせ、はだしだ。中に割に身体の大きい男の子二人は竹槍を杖に突いている。その後に幼児を負った女房二人――これは餓えと疲れの上に極度の不安のために気も遠くなったらしい様子で、ボンヤリ無言で、フラフラついて来る)
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子供一 やあ、町が見えら!
子供二 取手の町だんで! 父ちゃん兄ちゃんが待っとるぞ!
子供三 父うにあったら、おら、おまんまば食わしてもらうのじゃ! そいから、江戸へ行くんじゃ! な、嬢様!
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(お妙、そうい
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