側になるのだ。もっとも、それも、しねえよりはまし[#「まし」に傍点]だろかい。何かの足しにはなるからな。……どっちせ、ふところ手をして食って行ける人間のすることはそんなものよ。当てにはならねえ。トコトンの一番しめえに、人をぶっ倒しても、こんだ他人からぶっ倒されねえ者と言えば、百姓、人足、職人、穢多、非人なんどのホントの文無しの者だ。しかし、そいつは、まだまだだあ。……虎雄なんども自分の目で正《しょう》のところば見てくるがええて。
お妙 だって、あんた、もし戦争にでもなれば、虎雄なんど、もしかすっと……?
仙太 なあに、それでもええ。男だ、それは覚悟していようて。人間、人に依れば、ホントのことをウヌが目で見ようとすれば、殺されることだってあるものよ。ああに。……さ、馬鹿におしゃべりをやった。また、やろうかい、段六公。
段六 おおよ、今日はお天気具合がええで、仕事がハカが行かあ。アハハハ。(男達三人立上って仕度をする。お妙とお咲は茶の道具を片づけにかかっている。そこへ右手の道から顔色をかえてソソクサと出てくる百姓二人。甲乙ともに野良着のまま)
甲 やあ、仙太郎さ、ここか!
乙 畑かと思うて、どんねえに捜したか知れはしねえ!
滝三 どうしたんだい、小父さんだち?
甲 わし等あ報恩講の総代だってんで、呼出しを受けて普門院さ行って来たばかりだあな。下手あマゴマゴすってえと、いきなりステッキば引っこ抜いてぶち斬ろうというだから!
乙 どうしたもんだろか、仙太郎さ? 私等にゃどうしたらええかわからねえ。そいで相談に来たて。壮士は加勢ばしろというのだ! うん! どうしたもんじゃろか、仙太郎さ?
段六 あはん、自由党の騒ぎか? 自由党、まだ山へは行かんのか、佐平どん?
甲 それだあよ、山へ入るについて、第一に村方一統から、それぞれ米味噌ば差上げろというだよ。第二に若いし[#「いし」に傍点]連ば山へ一緒によこせというだ。もっとも米味噌については、ポンボッチリだけは金ば払うというだけどな。何しろ相手はあの調子の恐《こわ》もてでくるしよ。ことわるにことわれず、村の者と一応相談してからというて戻って来ただよ。これ、どうしたらええかねえ。仙太郎さ?
滝三 普門院の方丈さん、どうしてっかね?
甲 ああに、方丈さんは自由党に取りこめられて外にも出られねえのだから、早く何とか村方で承知するように手配
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