茶だぞう。(おおと返事をする声)
お咲 (声を張上げて)段六の伯父さあん、お茶でがんす! 段六の伯父さん! お茶でがんす! (稲田の中からまず滝三が立上り、お咲を見てニコニコする。つぎに仙太郎、つぎに段六が立ち上る)
仙太 おおご苦労だ。(言いながら手でも洗うのであろう、左手へ田をあがって姿を消す)
段六 (呆けた顔をして滝三とお咲の顔を見くらべて)滝三、咲坊の顔そんねえに見ているとそらそら、よだれが垂れら! アハハハ、だらしがねえと言うたら、こら!
滝三 何よう言うでえ! 泥ぶっかけるぞ!
段六 んでもさ、よだれが垂れてら、のう咲坊!
お咲 伯父さ、そんねえなこというと、芋やんねぞ!
段六 あんだと? アハハ、咲坊だって赤くなっとら。
お妙 段六さん、つまらんこというてねえで、早う手ば洗うて来さっしょ!
段六 へい、へい、(笑いながら左手へ。滝三も同様)
お妙 ここは木蔭がねえで、いつも難儀じゃ。んでもいい加減に少し雲が出て蔭が出来たて。
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(お妙とお咲は道端の草場に持って来た物を拡げて仕度をする)
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お咲 段六伯父さたら、いつもあれだ、ふんとに。
お妙 (ニコニコしながら)耳は聞こえなくなっても口の方は段々達者になるて。
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(男三人は手足を洗って、左手から戻って来る。草場に車座に坐る)
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段六 やれどっこいしょ。今日は芋かの? (見て)おほう、どうだこれ! 今年のは出来がええて! どうだこの色は! 源太の腕も馬鹿にはなんねえ。
お咲 あい、お茶。
段六 おほっ、俺が貰ってええか? 滝三よ?
滝三 あほ[#「あほ」に傍点]いうな、伯父さ。(もう芋を食っている)
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(五人、言葉少なに茶を飲み芋を食う)
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仙太 お妙、おかいこはどうだ?
お妙 あい、いまの分ではよかろうて。二番さんがあがるのが後《あと》四日じゃ。お前さん、暑そうだが、肌ぬいだら。
仙太 うむ……。(片肌をぬぐ。散々の疵跡である)
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(間――五人静かに、食い飲む)
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滝三 お父う、虎雄なあ、さっきの……。もしかすっと、ホントに……。
仙太 うむ……。
段六 (早耳に入れて)あんだとう? 虎雄がどうしたと? 帰って来たのか、
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