というても剛情張ったから。水だ。
お蔦 あいよ(土間に降りて竈の側のカメから茶椀に水を汲んできてお妙に呑ませる)お妙さんどう、しっかりしなさいよ。
お妙 ……ありがとう。ああ。
段六 (お妙の襟をくつろげてやったりして介抱しながら)ジッとしていりゃ、じきよくなっだ。身体のキツクねえ仁が夏場無理ばすっと、よく起すだよ。源坊、脚絆ば脱がして、さすってあげろえ。(男の子はいわれた通りにする)ああ、やっと口のはた[#「はた」に傍点]に血の色が出て来たわ。やれやれ、大概《ていげい》びっくらさせましたぞ、嬢さん。
お妙 ……すみません、段さん。もういいの、源ちゃん。ありがとうよ。
投六 あがって一時《いっとき》寝るがええ。これに懲りるがええですぞ、少しは。全体が無法すぎるて。
お妙 ……へえ。ザッとでいいのすて、ありがとう。(これはタライに水をうつして来て足を洗ってくれているお蔦に)……いいえ、あの一枚だけは、あんたがあんなに苦労して手に入れた苗代だし、……第一、あれがうまく出来てくれないと、秋には、子供達がまた痩せてしまう。……だもんだで……。
段六 それがいけねえ。お前さま一人の手があってもなくても、どいだけ違いますや? 俺とそれに、あいだけ小僧どもがいるに。
お妙 それだとて、子供達はまだ草もいくらも取れはしないものを。
段六 ああに、あれで結構取れてがすて。たとえ満足に行かなくとも、そこい行きゃお稲なんどというものあ正直なもんだて。小僧どもが大事にして可愛がってやっただけはチャンと出来てくれる。性の知れねえのは人間の心だけだ。……仙太公はどうしたね、お蔦さん?
お蔦 さっき、どっかへ出て行ったっけ。……さあ、お妙さん、あたしにつかまって。
段六 少しハキハキするがいいだ。前はあんな男ではなかったて。何がどう……。(いいつづけようとしているところへ、遠方で響く二、三発の銃声と、遥かに遠く三、四人の人が叫んで走る声)おお、また、天狗が水戸へ逃げて行かあ! 今朝っから逃げる、追いかける、ワラワラ/\と、全体あにがどうしたというだい。
お妙 段さん、早く田んぼへ行って! 子供達が危い! 子供達が危いで!
段六 そいじゃ行きやすからな、寝るですぞ。
お蔦 嬢さんは私が引受けたから。
段六 頼んますぞ。ほんに、きちげどもめ! 滝坊も一緒に行くか、よし。(二人の男の子を連れて急ぎ足に
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