直諒をはじめとして文武諸館、神勢館の水戸藩土、浪人、あぶれ者、野士、百姓、町人、ならず者、都合その勢四千人、……オッと喋っちまっちゃ商売にゃならねえ。さ、買った買った、一枚三文! (いつの間にか止めていた足でまた駆け出す)天狗一揆がスッカリわかって三文たあ、安いもんだ! さあ買った。ケチケチするねえ江戸っ児だ。買ったっ! よし、じゃこれだけはご愛嬌に薩摩の守だ。それ! (と瓦版の二、三十枚を掴んで、観客席へ向ってパッと雲のように投げる)それつらつら古今の治乱を考うに、だ、治まる時は乱に入り、乱極まれば治に入るとかや、一乱一静は寒暑の去来するが如く、天のなすところにして人力のおよぶべきに非ず、チャンと本文に書いてあらあ。家衰えて孝子現われ、国乱れて忠臣現わるたあ、広小路の古今堂の先生のいい草だ。昇平打続くこと二百六十有余年四民鼓腹して太平を唱う折、馬関と浦賀に黒船が来てさ、さあ事だ。てんであわて出した、開港通商、尊王攘夷、ケンケンゴーゴー、へん尊王攘夷が笑わせやがらあ! とはいうもののこう世間がせちがらくなって民百姓が食えなくなりゃ、何とか世直しせざあなるめい、てんで、それ、表看板が尊王攘夷、と来りゃ、天狗もまんざらでもねえという訳。只の天狗と天狗が違うと筑波で尻《けつ》をまくったのが、今年の三月は二十七日だ! 上を恐れず、暴威を振い、民家に放火し、宝蔵を奪う。とチャンとこれに書いてある。四月四日筑波を出て日光に飛んだ、天狗にゃ翼がある。早えや、次が下野太平山、あんまり太平でもねえ。そこで公方様が腹を立てなすって宇都宮以下常野十二藩に出兵を命ずと来たが、何しろ相手は命がけだ、埒が明かねえ。そのうちに水戸様不取締りとあって五月二十八日、幕命を以て天狗方の御家老武田伊賀守隠居謹慎、六月一日、同じく岡田国老をも隠居させ、諸生組の頭棟朝比奈、市川、佐藤を執権に据えは据えたが、天狗は筑波でやっぱりあばれる。追討軍が常陸国は高道祖《たかさえ》で天狗を破ったのが先月は七日、ところが天狗もさるもの、忽ち盛り返して掛けた夜討が丁の目と出て追討軍散々の目で逃げて帰るが江戸表、田沼様お乗出しと相成ったり。その間に水戸様では内輪もめだ。諸生組の御家老連またぞうろう首を斬られて水戸へ下って、お世つぎをトッコに取って水戸城籠城と来た、これを抑えにお乗り出しが宍戸の殿様松平頼徳侯、水戸様お目代《も
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