るのなんぞと、そんねえな、あんた様! こちらにいる筈の真壁村の仙太郎と申す男の少し身寄りの者でごぜます。どうか、あわせてやって下せえまし。へ!
早田 なんだ、それならそれと早く言え、尻の方からなんぞ登って来て! 仙太郎ならば、それ、あそこの矢来のズッと右の方に屯所がある、そこにいる。行け! (言い放ち、走って揚幕へ消える)
段六 あれでごぜえますか、さようで。ありがとう存じまする。いいえ、麓の方からここまで出会う人ごとに四度も五度も刀を抜いたりしておどかされまして、そいで、あんた……。ああ行んでしもうた。やれやれ、ありがてえ。やっと仙太公にあえる! (本舞台へ、ビクビクしながら歩いて行き、柵門の辺まで行きウロウロしていたが思い切って右奥の方へ向けてビクビクもので小腰を屈めながら)へい、お願え申しまするお願えいたします。あのう、真壁村の仙(……そんなところから屯所まで聞こえる道理がない。返事の代りに屯所の方で十四五人の声で「オウ」と叫声がして、後、シーンとする。誰か二、三人の人間が何か命令している声。中に隊二の声で「遊隊の残りおよび一番隊は、三十八名は裏山より別手として太平山へ直行! 遊隊十五名は麓において味方に合し、結城へ。よいかっ! 進発!」という声がハッキリと聞き取れる。同時に隊士二を先頭にして遊隊の十四、五名が一列に並んで右手より急ぎ足に出て来る。中に三、四の軽輩らしい士が混っているだけで殆ど全部が百姓と町人出の者ばかり。前出の遊隊一も二もその中にいる。全部、不揃いではあるが甲斐々々しい戦仕度。緊張して皆無言である。段六など無視して花道へ)
段六 あれまあ! フェー! (めんくらって、飛退り呆然と見ている。大部分が通り過ぎてしまってから、その中に、仙太郎がおりはしないかと思い出して、隊士等の顔を覗き込むようにする)あのう、もし! もし! 真壁村の……。
隊二 駆け足! (十五名は小走りに走って順々に揚幕へ消える。十五名の一番最後に少し離れてついて出てくる仙太郎。左手に抜身、右手に砥石を下げて)
仙太 真壁村……?
段六 おっ! ここにいた、仙太公! お前ここにいたのか仙太公!
仙太 おお段六公ではねえか! お前まあ、どうした? いつここに来た。
段六 仙太公! 俺あ、俺あ、あの……(と何から先にいってよいかわからず、泣き出してしまう)
仙太 まあ落着きなよ段六
前へ
次へ
全130ページ中70ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング