りでも、今度のわれわれの挙に加わりたい志を持った者が何十人かいるそうだ。あばれ者並びだからイザとなりゃ役に立とう。真壁の仙太郎親方に口添えをしていただいて軍夫でも雑役でもよいから加えていただきたいといったからな、拙者がいってやった、それなれば仙太郎に頼むまでもない、天狗党は天下無辜の者の味方だ、ドシドシやって来い、それで……。
仙太 待った、あんたも余計なことをいったものだ。……天下無辜の者の味方だなんぞと、いつも相変らずの大|束《ざっぱ》をきめ込みなさるが、段々見ているてえと俺にあ、そうとばかりは見えねえがねえ。こいつは真面目な話だけれど、どうだろう? 天下の事天下の事と口ではいっても近頃の皆さんのなされ方あ、水戸城内がどうしたの、江戸の藩邸がこうしたのと、まるきり藩の内々の内輪喧嘩ばかりに身を入れていなさるように思えるが? 第一、勘定に入れていた長州も因州も別に軍を始めはしねえというじゃありませんか? 天下の事とばかりで好い気持になっているときじゃあるめえと思うんだが。……怒っちゃいけねえ、俺達げす[#「げす」に傍点]の考えることなんだから。
隊一 そうか、ふん。……気に喰わなければ脱走して行け。貴公、命が惜しくなったのだ。
仙太 俺が? 冗談いっちゃいけねえ。それくらいなら初めっから来やしねえ。どう間違ったってこんなヤクザの体一匹投げ出しあ、それで済まあね。俺のいっているのは、沢山の人様のことだ。フラフラッと人気にくっついて此方へ来る連中は、またフラフラッと向うへ行っちまう連中だ。あんた方あ、天下何とかで民百姓貧乏人のことばかりに肩を入れて考えて下すっているのあ、ありがてえ。がだ、俺達の頼りにするのは貧乏人だけど、また、これで、何が頼りにならねえといっても貧乏人ほど頼りにならねえことも考えとかなきゃならねえというまでさ。
隊一 だが寄場人足がわれわれの味方で無くて、他にどんな味方があるか?
仙太 だからさ……。(いい続けようとするが止めて)とにかく俺にあいに来た者に、俺が会わねえ先に余計な油を掛けるのは止していただきてえ。
隊一 ふん。……挙兵以来、戦功抜群というのを鼻にかけて増長するなよ。百姓上りの無頼の徒が、士に向って何という口を利くか!
仙太 何だって? それをまた……。ま、いいや。チョイと急ぐから、まあごめんねえ。(右手へ去る)
隊二 百姓め、推参な!
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