がこぼれる!
遊一 それでは、田丸様、藤田様、水木様、本田様なんどの大将達が信用ならねえとでもいうのか?
遊二 まだ貴様、からんでくるのか! 信用しねえぐれえなら、俺あすぐ山を下っていらあ。
遊一 それなら、默って上の人達のいうことを聞いていさえすればいいのだ。俺が猪の脳味噌なら、お前のもドン百姓の脳味噌だ。
遊二 アハハハハ、それよ。だからよ、上の人の命令通りに命を投げ出しているんだから、早く戦争をやらして貰いてえというているのだ。味噌汁なんどばかり掻き廻してはいたくねえというのよ。
遊一 俺だとて、二三日前からこの銃《つつ》の奴等を、もうこれで五度位ずつも掃除をしたて。たいがいいやにもなろうわえ!
遊二 そこへ行くと同じ遊隊でも抜刀隊はうらやましい。斬られた者も何十人かいるが、刀あ抜いて斬って廻れらあ。副隊長つき添い、真壁の仙太郎さ[#「さ」に傍点]なんどは、軍《いくさ》が始まってから、あっちこっちでもう十四人斬ったてよ。腕も立つし、度胸も太えし、俺達とは競べものにはならねえが、それにしても運のええお人よ。
遊一 そうだってのう。俺達も早く飛出して、腕かぎり根かぎり斬ったり射ったりしてえもんだ。
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(隊士一が小走りに崖の方の路を降って来て門から出てくる)
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遊二 敵がいさえすれば門前町は大八楼で射ちてえところだろうて? ご愁傷さまみてえだ。
遊一 何を、野郎、またいうか!
隊一 おいおい、またやっとるな。ハハハ。門前町の女どもは少し戻ってきたらしいぞ。あんまり戦《いくさ》が暇でノンビリしているんで、安心しやがったらしい。何しろ寝起きのまま逃げ出した奴が裏山伝いに長襦袢のままのご帰還だ。女体からご本尊の神さんがご出御だと、見張の者がビックラしたとよ、ハハハハ。
遊一 ああ、三木さん。お使いですかね?
隊一 門前町に敵を打ちに行くなら今のうちだぞ。間もなく忙しくなるかも知れんからな。
遊二 そいじゃ、いよいよ、大きな軍《いくさ》が……。
隊一 うん、始まるかも知れん。相手は常野十二藩の連合軍だぞ。幕府が命令をくだしおった。ワッハハ、ふんどしを、シッカリしめておけよ。染川氏は屯所の方だね? (遊二のうなずくのを見て右手へ急いで去る)
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(間。……遊一と遊二が互いにマジマジ顔を見合っている)
(今去って
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