途中取押えに出張っていた諸藩の兵にロクスッポ手に立つ奴あいなかったっていうじゃねえか。こてえられねえなあ。
遊二 手に立つ奴がいないと聞いて、行きたいのだろう? ハハハハ。
遊一 阿呆いうなて! 俺あ軍《いくさ》がしたいのだ。どうしているのだろうなあ、本隊では?
遊二 二、三日前に来た使いの人の話では、何《あん》でも、歌の文句通りだそうだ。(歌)……鉄砲を並べハイヨ、杉の木の間で、のう火の番、一と寝入り、シタコタ、ナイショナイショ。日光にいつまでいても仕方がないから下野を廻って此方に戻ってくるらしいとも言っていたぞ。
遊一 なんにしても、軍《いくさ》が出来ねえのはつまらねえ話だ。ここじゃ攻めてくる奴もないし、ノンビリし過ぎらあ。(掃除をした銃を振って桜の垂枝を叩き落す)こんなものまで咲いているしよ、まるで物見遊山だあ。クソッ! (と銃の台尻を肩につけて観客席をねらって見て)昨日からの結城の合戦にも居残らされるし、腕が唸るぞ。鉄砲にかけちゃ、紫尾《しいお》の兼八敵に物は言わせねえんだがのう!
遊二 それはどうだか知らないが、下の鉄砲だけは、たしかに敵に物はいわせねえとな。ハハハハ、門前町の下の段あたりで、専らの噂だ。
遊一 何をいやがる、打つぞ!
遊二 おっと、危ねっ!
遊一 ハハハハ、丸は入ってねえ、オコオコするなて。
遊二 打たれてたまるか。的が違いやしょう、俺あ大八楼の女《あま》じゃねえ。ハハハハ。時に先刻まで砲音《つつおと》が聞こえていたが、てっきり味方が引いて来てその辺まで追込まれたなと思っていたが、また聞こえなくなったのを見りゃ、盛返して押し寄せたんだ。当分はまだ俺達にゃ軍運《いくさうん》は向いて来まいぜ。
遊一 全体がわからねえ話よ。ガンガン押出して行ってさ。結城だろうと下館だろうと叩き破り、江戸へ出て公方様なんぞ追払ってよ、その勢いで京都へのして天長様へ外敵打払いをお願えすればよい話だ。グズグズしているがものはねえ。
遊二 隣の内から猫の子ば貰うんじゃあるまいし、置いとけ。紫尾《しいお》の山で穴熊や猪を追うていた奴に何がわかるものか。
遊一 んでは、文武館に一、二年水汲みか何かでいただけで元が潮来の百姓の貴様にだって同じだろうが! 加多先生がいつかいうたぞ! 天下のことをわかるのは、お前達だ! お前達がホントウにわからないで、他に誰がわかるか! 自重し
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