ら直ぐ戸口の辺に迫っているので出られぬ。逃げ道は無いかとパッパッと四方を見るが出るにも入るにも裏口以外にない。トッサに土足のまま板の間に走りあがって仏壇になっている二重戸棚の下段の戸袋にパッと飛込んで内から戸を立てる。それと間髪を入れず裏戸口を突開けてなだれを打って飛込んで来る人々。天狗党の士達か、捕方ででもあるかと思っていると、そうではなくて附近の住民の百姓達と、この屋敷内の納屋に騒ぎを恐れて避難してきていた老人、女、子供達の十人ばかりである。「アーッ、天狗だあ!」「助けてえ!」「嬢さまっ!」「アレ、アレ、来たっ!」「お助けなすってえ! 嬢さまっ!」等短い叫声をあげながら、土間の右手竈の辺へダダッと転んだりして一かたまりになって殺倒し、おびえた眼で戸口を見る者、お妙を見る者。お妙がツカツカと上りばなに進んできて、これら見知りの人達に「どうしたのでえす?」とか何とかを言おうとしかけるが、口をきく間も無く、人々の踵を踏まんばかりに無言でドヤドヤと戸口から入ってくる暴徒六人。士らしい服装の者あり、浪人らしき者、士とも町人ともつかぬ様子の者、博徒らしい者、中の一人は坊主頭で、ころも[#「ころも」に傍点]を着ている。六人の中、四人までがドキドキするような抜刀。他の一人は槍を、もう一人は竹槍を突いている。入って来るなり何もいわずに家の中をギロギロ見廻し、ガタガタ顫えている段六、恐怖の極、叫声も立てなくなっている避難民達、上りがりまちに二人の子を抱いて立っているお妙を暫く睨みまわす。……間。やがて、六人の中の頭株らしい、士姿の者が、ズカズカと進み出て、上りがまちの板、お妙から遠くない場所に、持った抜身をガッと突立てるなり)
徒一 金を出せ! 軍用金だっ!
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(間。――静かな中で奥納戸でこの騒ぎに眼をさましたらしい子供の中の一人が、ヒーッと一声泣く。一声ぎりでパタリと止む)
[#ここで字下げ終わり]
お妙 ……どなたでござります、あなた方は……?
徒一 何もいうな! 金を出せ。この家にあるだけの金を出せ! 軍用金に借りる。早くしろ、いいや、何もいうなといったら!
お妙 ……ございませぬ。
徒一 なに※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
お妙 お金はチットもありませぬ。
徒一 (噛みつくように)言うかっ女!
お妙 たとえありましても、どなたかわかりません方にお貸
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