こかしら、いつもとちがった冷たく固い
眼をなすって
「美沙子さん、徹男は戦死した」
と言って、そして、長いこと何も言われない。
私の頭のどこかがブウンと鳴った
涙も出ず、悲しい気持もおきず
先生の顔をバカのように見守っていた
しばらくして、「僕の思いすごしでなければ
あなたの方は、とにかくとして、すくなくとも徹男のがわに、
あなたに対する何か細かい気持が動いているような気がした事が一二度ある。
それで、特にあなたには、この事を
僕自身でおしらせしたいと思って、今日は来ました。
差し出た、よけいな事だったら、おわびをする。
あれの戦死については、今さら
かくべつの感慨はない
かねて覚悟していた事で、むしろ本望だったろう。
ただ、戦場に立って兵士として一弾もはなたぬうちに、たおれた事は本人も無念だったろうと思う
僕らとしても、それだけが、残念だ」
先生の言葉は私にはわからなかった
私の[#「私の」は底本では「私に」]耳にはその時、徹男さんの声がきこえていた
「……美沙子さん、僕は死にたくない」
ツト寄って先生が私を抱いた
気が遠くなり、私はたおれかけたようだ
そうでなくても仕事の過労と栄養
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