私を引きとめたり、しばったり、けしかけたり、がんばらせたりするものは
今はもう何一つとしてありません
私をおびやかしたり、こわがらせたり、追いつめたりするものは、この世の中にはないのです
私の夜ごとの夢に現われていた兄さんも徹男さんも、もうサッパリと出てこなくなりました
私は泥のように、よく眠れるようになりました
私はこれまでのように頭痛がしなくなりました
私は空に浮いたひとかたまりの雲のように自由です
なぜならば、私はヤット人間を見つけたのですから。
人間は虫ケラにソックリ似たもので
そして虫ケラにソックリ似ていても悪いことはすこしもないと思うようになったのですから。
人間は、ケダモノが信用ならないように信用できないものですけど
しかし人間は、もともとケダモノなんだから、それでよいのだと気がついたのですから。
なまいきな「英語」で言って見ますならば
人間を否定しよう否定しようと気張って来た私が
妙な事から人間を肯定するようになったらしいのです
そうなんですの
ところが、否定していた間は、とにもかくにも生きて来られた私が
肯定したら、その時から、セッセと生きては行けなくなった
人間を憎い憎いと、まっ黒こげになっていた間は
生々と人間らしく暮して来られたが
憎しみや悪意が私から消えた時から
ガッカリしちゃって、チャンとした人間でなくなったのです
人間は、なにか、とんでもないものに支えられて生きてるものじゃないでしょうか?
いいえ、人さまの事は知りません、この私という人間は
はじめから、何かまちがっていて
人さまとはアベコベなのかも知れません
こんな女も居るのだとでも思って下さいまし。
こうなれば、こんな所で踊っていてもつまりません
永々と皆さまのお世話になって少しは名残りも惜しいのですけど
このへんが潮どきでございましょう。
芸人づらの、高級ぶってダンサアしてるのは客引きの張店で
人をも自分をもゴマカシているイヤらしさにも飽きました
眉毛をもうすこし長く引き、口紅をもっと濃く塗って
チュインガムをクチャクチャかみながら鼻唄うたい
気楽にただの普通のPさんで
世間の波に沈みます。
いろんな男を相手にして来たカラダです
いずれ行く先きは知れています
これまでは、私を選んで下さるあなた方の中から
私が選んでお相手をして来ましたが
これからは、たくさんの女の一人として
そこ
前へ
次へ
全46ページ中44ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング