イセツだ! ワイセツだよ! それこそワイセツだ!
あれとこれと、又、それと、なんと自然にスラスラと使いわけて行くだろう
二重生活といいたいが、私の知らない所では三重四重になっているかもわからない
そういえば、大学の講師と文筆と講演などの稼ぎだけにしては
お前の生活は豊かすぎる
どこかに金をつかむツルを持っているかも知れないし、
闇取引のブローカアでもしているかも知れない
名義を変えた財産を持っているかもわからない。
はてしなく、私の目まいは、更にはげしくなる
私は立っていられない!(残っている方のオダリスクをも取り去り、ヨロヨロと、酔ったあげくのジルバのようなステップで、ステージの一番前へ乗り出して来る)
なんでもよいから、早くやってしまえ! 早くやってしまえ!
お母さんの短剣がうずいているんだ!
ホントに私の頭が狂ったかと思ったのは
それから間もなくだった
川岸のアパートにお前をつけて行って、天井に入ってのぞくと
その晩は女が気が向かないか、金が少いか、もしかするとホントにメンスだったか
お前が犬のように哀願しても、身体を開こうとはしないので
お前は遂にメソメソ泣き出して
果ては横づらを突きこくられている時に
女の所に通って来る、ほかの二三人の中の一人で
ゴロツキのような闇屋の男が入って来た
お前はたちまちペコペコとおじぎをして
脱いであったズボンを拾って着ると
コソコソと部屋を出て帰った。
その次ぎの夜だ
神田の方で催される文化講座に、お前の講演もあることを知って
私は聞きに出かけて行った
お前は、そこで、いつもの通りに学者らしい素朴さでズカズカと出て来て、確信ある者の落着きと、シュン烈さで
「平和と文化」について話した
戦争というものは、資本主義的商品生産の必然の結果として起きるもので
人々が平和を真に望むならば
資本主義と闘って、これを打ち倒す以外にない
そして、資本主義と闘ってこれを打ち倒すための拠点になるものは労働組合だ
それも急進的な左翼的組合でなければならん
――そういう議論をお前は理路整然と
いろいろの論拠を並べて説いている
私には議論が正しかろうとまちがっていようと、どっちでもよかった
私はお前の、紺のダブルに包まれた端麗な姿と
良心と熱意のために心もち上気した顔ばかり眺めていた
そのうちに前夜の川岸のアパートでベソベソ泣きながらズボンを拾っ
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