誠実な顔をして進歩と人民民主主義を説き
清い家庭の良き夫、良き父として
人格高邁、微動だもせず以前と寸分違わぬ姿でいることだ
これは何だ? わからない。
わからないままに、私はますますお前の後をつけまわした
家から教室へ、教室から講堂へ、講堂から川岸のアパートへ、アパートから家へ、
グルグルと眼がまわり出したのは私の方だ
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(既にしばらく前から、言葉の調子はたたみこむように急速になって来ていたのが、このあたりから、益々速くなる。同時に、それにともなう表情とシカタも、あらわに大きく激しくなる。しかも言われている言葉と動作がズレて、随所でシンコペーションを起して、それが異様な感じになる)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
ねえ、頼むから、そんな薄情な事はいわないでくれ
この次ぎは五千円ぐらい持って来るから
いやいや、今度二冊ばかり本を出版するから
それが出れば四五万円はいるから
なんだったら、もっとたくさん持って来られる
ねえ! だから! 僕は君がホントに好きなんだ!
僕はこの胸を割って見せたい! 疑うならば、しめ殺してくれてもよい
愛している! 蹴られたっていい! 踏んづけられたってかまわない
いいや、踏んづけてくれ! ホントに踏んづけてくれ!
ね! ね! ねえ君! ヒー、ヒー!
シラリシラリと冷たく笑いながら白い眼をして睨んでいる女の足元で
お前はチギレチギレに、うわごとのように、身をふるわして言いながら
こうやって、こんなふうに(身をよじらして、キッスの雨のゼスチュア)こうして
よごれた女の足の先からだんだんにクルブシ、フクラハギ、ヒザ、フトモモとくちびるが
昇って行って山の傾斜を這いあがる
くすぐったいよう! バカあ!(身をもんでキッスされている女のゼスチュア)バカあ!
バカだねえ、くすぐったいたらさあ!(ベリリと腰のオダリスクの片方をやぶき捨て、片方のモモの円柱を斜めにグイとあげ、最下等の媚びと軽蔑とを混ぜて、自分のからだを男に投げ与えるゼスチュア。ゆかに倒れて鼻声を出す)
夜ふけの雨が窓を叩いて
天井で思わずミシリと言わしてもお前たちには聞こえない
私がのぞく節穴にいっぱいに、クローズアップにひろがって
組み合わされた四本の脚がギチギチギチと音なく動き
その間から、ダラリと舌を出したまま、ハッハッハ
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