るうちに
私はおかしな事に気がついた
お前が外出する十度に一度ぐらいの割合で
月に一度か二度、その日の用事をたした後で
妙にお前がソワソワと落ちつきを失って
歩きながらもキョロキョロとあちらを見たり、こちらを見たりしているかと思うと
不意に自動車などに飛び乗って
それきり、どこへ行ったかわからなくなる事がある。
はじめ私は急に何かの用を思い出して、そこへ行くのだろうと思った
それにしては、なぜあんなにソワソワするのだろうとも思ったが
一度偶然にそういう時のお前をつけて見る気になって
その夜はお前が輪タクに乗ったのを幸い
私も直ぐに輪タクに飛び乗ってつけさせた
行きついた所は京橋裏の築地寄り
いや、あれはもう築地に入っている所かもしれない
川に添った裏通りの
表から見れば古いビルディングだが内部は空襲でこわれたままに
応急にガタガタと仕切って作ったアパートだった
そう、今となってはあれでも高級の部のアパートか
お前は車をおりるとキョロキョロと前後を見まわしてから
コソコソと、その建物に入って行き
一階の廊下の突き当りの左側の室のドアをノックしてから中に消えた
それを見すまして私はすぐに入って行き
ドアの前に立って耳をすますと中で女の声がして
それにお前が何か言っている
ドアのわきを見ると五号室とあって小さな名刺に田川と出ている
私はしばらくそこに立っていてからユックリ歩んで帰りかけたが
その時表から此処に住む人らしい人が入ってきた
トッサにどうしようと私は迷ったが、
見ると、直ぐわきに二階にあがる階段がある
腹をきめて、わざとユックリと落ちついた歩きかたで階段を昇った
人が見れば、二階に住んでいる誰かを訪ねて来た客に見えよう
昇りつめるとカギの手のおどり場になっていて
下の廊下からは見えないので、そこにしばらく立っていてから帰るつもりでフッと見ると
おどり場のわきの壁が焼夷弾でも受けた跡かポッカリと口を開けて
申しわけに二三枚の板が打ちつけてあるだけ
すかして見ると、その奥はまっくらで、天井裏になってるらしい
位置の関係から、それが今見た下の五号室の天井になってるようだ
頭にキラリと来るものがあって、よっぽど、その穴にもぐり込んで、天井のスキ間から
のぞいて見ようと思ったが、いくらなんでも出来なかった
そしてその晩はそのまま戻ったが
ハナから知らねばなんでもなかったの
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