そのくせ、どこか心の隅ではイソイソとしながら出かけて行っては
山田先生の話や
右翼の革新団体からやって来た講師などの
噛みつくような議論に聞き入りながら、
徹男さんと眼が逢うと
両方で怒ったように、しばらくジッと見合っていて
やがて話し手の方を向いてしまう。

まったくイキモノはホントに愛し合うと
お互いに、なんとオカシな事をし合うのでしょう!
相手を抱こうとして、一番遠くへはね飛んだり、
相手にキスをしようとして、相手を喰い殺してしまったり、
これが證拠に、恋の最中の男と女の姿は
互いに憎み合って闘っている姿に一番似るのです
こうします、こんなふうにします(しかた)
又、こうやって、こうして、こうなって(しかた)
又、こんな眼で見たり、こんな眼で見たり(しかた)
ふふ!
そして、あの人と私は(しかた)
こんな眼つきをして互いに見合ったのです
……(暗い眼でこちらをジッと見ている)

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(間……)
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さて!(ズッと椅子にかけて語っていたが、この時、フッと眼がさめたように椅子を立つ。コトリと音がして、肱で押された羽根扇が卓から床に落ちる)
  ……(それに気附き、ユックリした動作で下を向き、白い頭と左腕をしなやかに伸ばして扇を拾いあげる……白鳥が何かをついばんでいる)
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(ユックリと身を立てたかと思うと、声は立てずに笑って、調子がクラリと変って、軽快に)
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ごたいくつ、こんな話?
長々と語られる他人の身の上話です
ごたいくつに違いありません
なんなら、このへんで、思いきったオシバイをして見ましょうか?
それには、そうです(片方の乳当てをパラリとはずして、その中に入れてあった小ビンを取り出して光りにすかして見る)こんな物も持っていないわけではございません(小ビンをカチリと卓上に置く)
白いのもございます
こういうものも有りますの(ベルトにはさんで持っていた六寸ぐらいの刃物を取り出し、右手に持って、乳当てを取った左の乳房に向って擬する真似をしてから、それをカラリと卓上に置く)
ほほ! ごめんあそばせ、じょうだんですの
さて急ぎます
音楽を、どうぞ! アレグロ・ヴィヴァーチェ!

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