s六 ひっぱたいた? そんなムチャな――いや、後で話さあ。こいからお前どうする? 俺あこれから金吾んちへ行くが?
喜助[#「喜助」は底本では「善助」] じゃ俺も一緒に行くか。金吾んちで一杯のみなおしだ。ちしょうめ!
壮六 ……(金を出してそこに置いて)おかみさん、おやかましう。代はここに。さ、棟梁! 大丈夫かよ?
喜助[#「喜助」は底本では「善助」] なあに!
お妻 そりゃどうも。だいぶ呑んでるで気をつけてな。
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「お晩でやんす!」と言って通り過ぎて行く少女。
音楽(信州のテーマ、静かな)
遠くでフクロウの鳴声。
いろりばたで、めしを食い終えた茶碗や箸の音がして。
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金吾 壮六、もう汁はいいかい? まだあるぞ。
壮六 いや、俺あもうたくさんだ。喜助棟梁が目えさましたら食わしてやれ。……見ろま、棟梁すっかり酔いつぶれて寝こけてら。腹あ立ってるもんで酒がよく廻るだ。
金吾 喜助さんと言い――(大鉄びんから茶をつぎながら)お前と言い、俺の事じゃいつも心配かけてすまねえなあ。
壮六 なあに心配はいいが、どうだ、ここらで何とか話をまとめねえと、どうにもおいねえがなあ。お前も言うだけの事は言っただから、どうだ、黒田の別荘だけは手をつけねえという事にして、あとは勝手に開墾させるという――言って見れば妥協だが、今の御時世なんつもんは、一切合切軍部軍部で、ここらの実行組合の世話役なんず、言って見れば軍部だかんな、長い物にゃ巻かれろだ。
金吾 うむ。だけんど、そうするとしても別荘にゃ、ふだんは誰も住んでねえしな、ああしておくのは食糧増産の国策に反すると言ってるだから、あすこを残して開墾してくれと言っても組合でウンとは言うめえ。
壮六 そりゃ話のつけようだ。俺がちゃんと話をつけて見べえ。
金吾 俺あ駄目だと思う。そんで万一あすこが取りつぶされちゃったら、今後又春子さまがこちらに見えた時、どこに置いときゃええだ?
壮六 そうなったら問題ねえ、このお前んちに置きゃええよ。
金吾 そ、そんなお前、そんな事あ出来ねえ!
壮六 はは、お前という男も、なんとまあ、ふふ……
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その時、不意に、この家のハメ板や窓に向って周囲の林から小石がふって来てカタッ、カタッ、バラ、バラガタンと激しい音。
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金吾 おっ!
壮六 なんだ?(再び石が飛んで来て戸板に当る)……どうしたつうんだ?(立って土間におりる。戸をガラリと開け)何をさらすだっ!(庭端にとびだして闇に向って叫ぶ)おーい、村の衆、つまらねえ事あ、よしてくれえ! 話をつけには明日にでも俺が行くだから、そんな事あ、よせいっ!
闇の中の声 ……(いっときシーン、としていてから)ヘッヘヘヘ、柳沢金吾の助平ぢぢい! 色きちげえめ……
闇の中のもう一つの声 大工の喜助を出せえっ! 今日はよくも村のもんをなぐつたなあ! 仕返しをしてやるから、喜助を出せえっ!
金吾 ……そんな、そりゃ、皆の衆!(と思わず庭場へとび出して、林へ向って叫ぶ)俺が、おめえたちに、どんな悪い事をしただ? 話があれば聞くだから、そんな……この開墾の事だって、ここを切り開いてしまえば、水の筋が変ってしまって、この下の水田は駄目になるぞっ! 黒田様の土地が欲しけりゃ、俺あ村へ寄附してもええだ。なんで俺が国賊だ?
闇の中の声 へっへへ、色きちげえめっ!(バラバラと石がふってくる)
金吾 あっ、っ!(石の一つが額口にあたった)
壮六 あ、いけねえ! 切れたな? 金吾、お前ひっこめ、よ(闇へ)おーい、金吾はお前たちの石で頭あ割られたぞっ! つまらねえ事あ、よせっ! さ、金吾、内ん中へ、へえるんだっ!(金吾を引っぱる)
金吾 (引きずられながら叫ぶ)俺が、どんな悪い事ばしただ? 村の衆、聞かしてくれろ! 俺がどんな事したれば、こんな目に会うんだあ!
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暗い林の中でケラケラと笑い声。
烈しい音楽。
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[#3字下げ]第15[#「15」は縦中横]回[#「第15回」は中見出し]
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壮六
金太郎
金吾
敦子
お仙
春子
音楽
[#ここで字下げ終わり]
壮六 (語り、老年の)そうでやす、共同耕作問題ではひどいゴタゴタがあったが、結局は、黒田の別荘だけを残して開墾してもらいたいということを金吾の方から折れて出て、開墾がはじまったが、あの頃のそういう事というものは大概そうだったが、はじめ四五町開いただけで、あとはウヤムヤに放りっぱなしになってしまった。
黒田の春子さんはその後も東京辺であちこちしていろんな目に逢いなすったそうで、お嬢さんの敏子さまは横浜の敦子さま御夫婦のお世話で芸者にはな
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