の小父さんが喧嘩をしてる
そのありさまがパッパッと電気のように現われて
垣根のところで父は鎌を小父さんは鍬をふりかぶり
両方とも顔から首から血だらけにケガをして
ケモノのようにたたかっている!
いけない! いけない! いけないと
起きあがろうとしてもギブスをはめた身は
どうしても起きあがれない
お父さん! 花婆やっ! お父さんっ!
誰か来てっ!
もがき苦しんでいる間も
表の騒ぎはやみません
どこかでしきりと井戸水をくみあげる音もする!
わーっ、そっちだ! あぶないっ!
ウォーッ! と男の人たちの声々!
バリバリバリッと何かのこわれる音!
ああ、どうしよう?
お父さんが殺される!
早く来てっ! 誰でもいいから早く来てっ!
畳に爪を立てるようにもがく!
そこへ出しぬけに窓の雨戸をガタン・ゴトン・ガラリと押しのけ
障子をサッと開けながら
「光ちゃん、光ちゃん、どうした?
おれだよ、昇だ、大丈夫だよ!」
昇さんは目をギラギラと昂奮した顔をして
頭から肩からグッショリと水に濡れてる!
しかし直ぐハッハと笑って見せて
「光ちゃん、心配しなくてもいいよ
一時はどうなるかと思ったけど
もう大丈夫だ、ハハ
おれ、光ちゃんのこと思い出してさ
どうしてるかと思ったもんで駆けて来た
やっぱり小父さんも婆やさんも光ちゃんのこと
置いてきぼりで行ったんだな、ハハ
しかしもう大丈夫だ
安心したまい、光ちゃんよ!」
「ああ、昇さん、いったいどうしたの?
またうちの父とお宅の小父さんが喧嘩したんでしょ?」
「え? 喧嘩?
ハッハハ馬鹿な! 喧嘩なんかじゃないよ!」
「ですから、あたしには何のことやらサッパリわからないんじゃないのよ?
さっきからの騒ぎ
表のオコシヤさんの角の辺に聞えたけど
一体全体どうしたの?」
「あ、そうか、そうだな、光ちゃんにはわからないのが当然だ
そうなんだよ、オコシヤで火事を出したんだよ
オコシヤの裏の工場でアラレを作るんで
あんまり火を燃しすぎたと見えてね
釜場の裏のハメ板が加熱しちゃって
不思議じゃないか、そっちの方は燃えないで
そら、僕んちの物置がすぐあの裏に立ってるだろ
あの物置の草屋根の下から燃えあがったんだ
その火を一番最初に見つけたのが誰だと思う?
こっちの花婆ちゃんさ
ハッハ、耳は遠いが目は早いんだね
暗いうちに、はばかりにでも起き出したか
お宅の本堂のわきか
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