、モダンガールにしちゃ、チョイト小股が切れ上り過ぎてる。
三好 モダンガールじゃ無い。
お袖 (茶を入れながら)だけど、なんですよ。私は感心しているんですよ。あれでいて、きまりきまりだけはチャンとしたもんですから。黙あって三好さんの下着まで洗濯なさる。
堀井 それにしても登美と言うなあ、時代だね。お登美さんか。(茶を呑む)
三好 ……(抜身を鞘に納める)このままじゃ持って行けませんね。
堀井 行くまでに拵えを直させるよ。
三好 この方は、なんです?
堀井 お不動さんの画だ。
三好 (軸物を開きながら)これも持って行くんですか?
堀井 いや、一所に入っていたから出して来たまでだ。
三好 ……(小さい軸物を開けて、そこに描いてある真赤な画を見て、ギョッとする。次に吸いつけられたように画に見入る)……ふーむ。
堀井 金《かね》なんとかてえ人の描いた、古いもんだそうだ。
三好 ……ふーむ。こいつは――。ふーむ。
堀井 唸る事あ無かろう。
三好 ……先生、これ持っていらっしゃい。刀なんぞ、くそくらえだ。
堀井 医者が仏さんなんぞ持って行けるもんか。気に入ったら、君にあげようか。
三好 そんな無茶な……。でも、持って行かないんなら、僕に貸しといて下さい。
堀井 いいさ。他にあげる物と言っても、なんにも無い。その煙草入れは気に入ったらしいけど、駄目だしなあ。これでも親父があちらから持って帰った時は、関税だけでも百円近く取られたらしいけど、こうして封印を附けて書き出して見ると、たしか七十円たらずだよ。なさけ無いや。まあ、そのお不動さんでも持っていたまえ。もしかすると、そいつが僕の形身になるかも知れん。
お袖 先生、そんな――。
堀井 いいよ、わかってるよ。大袈裟な事あ、俺あ、きらいだ。だけどね、……たかが軍医で行くのに、死ぬの生きるのと言うのも変な話だけど、実あ正直の事言やあ、……今迄みたいにしてフラフラやっているなあ、いやんなっちゃった。死んだっていいから、もっとハッキリした事をやらないじゃ、もう、俺あ、たまらん。
三好 ……(急になぐりつけられでもしたように、首をうなだれて聞いている)
堀井 人間、四十になって、こうして、先祖以来の家にも住めん。診療所も院長と言うなあ名ばかり、月給九十円の雇人だ。キョトキョトしながら、人にかくれて、親子三人アパート住いだからな。アッハハ。いくら
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