い理由が有りましてね、どうも、二本立てが否決されちまったんです。……そんなわけで、今更になって甚だ申しわけがありませんが――。
三好 ……刈込むんですか?
浦上 ええ……実はそうも考えて見たんですけど、あなたの前で言っちゃ、なんですけど、さすがにピシッと出来ていて、これ刈込むと言っても、そんな余地は無い。下手をすると、せっかくの良い脚本をぶちこわしてしまう。それでは、うちの芝居の建てまえにも反するし、第一、あんたに対して失礼過ぎる。で、此の際、残念ながら、これは一応保留と言う事にして、なんとか、他に応急策を考えようと皆の意見が――。
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(その話の内に轟が茶を入れて出て来て、二人の前に茶を出し、自分も坐って飲む)
[#ここで字下げ終わり]
三好 …………そうですか。……そいでほかに適当な本が――?
浦上 無いんで、困っているんですよ。こう日が迫って来ちゃって、改ためて誰かに頼むと言うわけにも行かず……出来る事なら、多少の無理をしても、あなたの物を予定通りやりたいのは山々ですけど。
三好 ……仮りに刈込むとすれば、どれ位ちぢめれば、やれます?
浦上 それがねえ、あまりひどいんで言いにくいんです……。
三好 言って見て下さい。僕も、あれで以てお宅から金を前借りしているんだし、それが駄目だで、すましては居れんので、出来る事なら、なんとかして上演して貰わんと気が済まない。あれは百五十枚チョットとですが、二十枚位なら刈込めるかも知れませんよ。
浦上 それがねえ、とても、それ位では――。なんしろ、取れる時間が、精一杯で一時間足らずなんで――。
三好 すると、百枚にちぢめても駄目ですね?
浦上 ええ、まあ……。
三好 じゃ八十杖なら、出来ますか?
浦上 それでも少し長過ぎますけど――。
三好 じゃ五十枚なら?
浦上 そうしていただければ、時間の点はいいんですが、そんなに刈込めますかしらん?
三好 ハハ、刈込めませんねえ。いくらなんでも三分の一には出来ないでしょう。そんな脚本は、初めから僕は書いていないつもりですがねえ。
浦上 ですから、ですから、初めにも申した通り、あんまり失礼だからって――。
三好 そいつは、しかし、少し無理と言うもんじゃないかなあ。……戯曲は生き物ですよ。そいつを三分の二だけ、ぶった切って、恰好つけろ。……こいつは、初めっから、出来ないを承
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