私は此処に置いて貰う! あんたが教えてくれるか、先生が此処に現われるかだ。すまんが、それまで居させていただきます。
三好 ……そうですか。そりゃ、まあ仕方が無いけど、僕はホントに知らんし、先生も今日明日には来ないだろうし――。
韮山 かまん! もうこうなったら私も意地や! 置いて貰う!
三好 そいじゃ、まあ、どうぞ。
韮山 あんたらから、舐められている韮山かどうか、まあ見ているが――。
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(言っている所へ登美が、深呼吸をしながら、上手の廊下口からスタスタ出て来て、廊下の角の所に姿勢を正して立つ。素顔に素足が戸外の照り返しを受けて白くピチピチしている)
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登美 ……(やがて、すなおな張りのある号令をかけながら、ダルクローゼ体操をはじめる)一、二、三、四――。(それが自然にオルゴールの曲に合う)
韮山 (それを見てビクッとして言葉を切る)…………
登美 (足を上げ手を振り、無心につづける)五、六、七、八。……一、二、三、四、五、六、七、八。――
韮山 ふーん。……(少しキョトキョトしながら、われ知らず立ちあがって、登美の体操をマジマジと[#「マジマジと」は底本では「マヂマヂと」]見ている)
三好 ……(ニヤニヤしながらその韮山の様子を見ながら、坐って煙草をふかしている)
登美 一、二、三、四、五、六、七、八。……一、二、三、四――。
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(そこへ下手の庭木戸の扉を開けて、着流しの轟一夫〈卅二三才〉が入って来る。頭髪を長くモジャモジャに[#「モジャモジャに」は底本では「モヂャモヂャに」]した男で、原稿紙をフロシキに包んだのをぶら下げている)
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轟 お早う……。(呼びながら庭に歩み入って[#「歩み入って」は底本では「歩み入つて」]来るが、直ぐに登美の姿に眼を引きつけられてしまう)
三好 (坐ったまま振返って)ああ、轟君か。
轟 今日は。ベルが、又、こわれたようだな。(言いながら眼を三好から、突っ立っている韮山に移して、変な顔をしてしばらく見ていたが、やがて又登美に眼をやる。この男は、登美のダルクローゼは以前に一二回見たことがあるらしく、韮山のようにびっくりした見方では無いが、ゆるやかに正確なリズムで動く若い女の姿態の新鮮さに眼を洗われたように見守っているのである。その間にオルゴールが一
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