してしまう。堀井も三好も笑い出す)馬鹿ね!
(その笑声に混って奥でベルが鳴り出す。三人ヒョイとそれに気が附いて、次々に笑い止んで耳を澄ます)
堀井 ……野郎、来やがった。(少しキョトキョトする)
お袖 どうしましょう? そうでしょうか?
三好 ……裏木戸から行って下さい。
堀井 袖、靴だ靴だ!(お袖、足音を立てないように走って上手奥へ去る)三好君、頼むよ。(縁側に出る)
三好 大丈夫ですよ。……(下手奥の玄関の方に聞き耳を立てている。その方で誰かが何か言っている声が微かにする)僕あ、玄関で喰いとめていますからね……(行きかける。そこへお袖が堀井の靴と自分の下駄を抱えて小走りに戻って来て、少しウロウロする)
堀井 (押し殺した声で)袖、早くしろ!(お袖、下駄を庭におろして穿き、堀井の靴を並べる)三好君、じゃこれで。
三好 じゃ――。
堀井 おっと――(靴を穿きにかかるが、あわてているので、うまく穿けない)くそ、外で穿け!(いきなり靴を手に持って、足袋はだしで庭に出て、お袖を先に、ユスラ梅の所を廻って上手の方へスタスタ行きかけ、フト靴と刀をかかえ込んだ自分の姿を振り返って見て、不意におかしくなり声を忍んで笑いながら縁側の三好を振返る。三好は、笑わず早く行くようにと手で示しながら、玄関の方を気にしている。お袖と堀井、庭を上手へ消える。それと殆んど入れ違いに、下手八畳の室の下手の襖を開けて初老の男(韮山)が、ノコノコ入って来る。古ぼけた洋服が身体に合わず、小さい両眼が赤く充血している。三好は此方の縁側に立ったまま、その気配に気を配っている。)……(やがて、大きな声でどなりつける)誰だあ?
韮山 …………(その声に耳を立てるが、返事はせず、キョトリキョトリとその辺を見まわしている)
三好 ……(振返って見て、堀井達の立去ってしまったのをたしかめてから、廊下をノソノソ歩いて、八畳の方へ)ああ、あなたでしたか。
韮山 やあ。……
三好 ……なんだかムシムシしていやな天気ですねえ。
韮山 天気? 天気など、どうでもよろし。堀井博士に私が来たと言って下さい。
三好 堀井さんは、居ません。
韮山 冗談言ってはいけまへん。居ないものが、あんだけ呼びりん鳴らすのに、なんで誰も出て来ない?
三好 (笑い出して)居ないから出て行けないのですよ。だけど、ベルをあんなに激しく鳴らすのは、かんべんし
前へ
次へ
全55ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング