笠太 さ、来いクミ!
クミ (しやくり上げつつ)乗合でなきや、いやだ。
笠太 あん大将より先い着かんならん。乗合なんぞに乗つて居れるか! 駆けるんぢや。(クミの手を掴んで走り出す)
クミ あれ! んで、甚次さんはあ?
笠太 甚次は又明日ぢや、さあ!(そこへ、黙つて六郎の手を引いて走つて来た六平太が突き当る)たツ!(混乱して)区長さん、あんたあ、お先い帰つてくだせえ、気の毒だあ!
六平 あにを申すか、貴様、二段田あ……(殆んど歯をむき出して相手になりかけるが、フイと止めて)帰つてんぢや無やあかい! 阿呆たれつ! さ、来う六郎! (六郎の腕を掴んで左へ走り去る。同じく笠太郎も、とうとう声を上げて泣き出したクミを引立てて走り去る)
紙芝 ……(驚いて待合の外に出て来てゐたが、呆れて四人を見送つてゐた後)……アハハハハハハハ。アハハハハ。
トヨ アハハハハ。アハハハ。(二人が自然に笑ひ止むと、四辺は急に静かになる。笑つた後だけに殊更に寂しくなつて、紙芝居は子を抱いたまま、再び待合に入つて掛ける)
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トヨ ……はあ、あんたさん、まだ行かねえ
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