適当な呼びようの無い種類の一群の作者たちがいる。全体の約三分の一ぐらいを占めているようである。作品の数からいうと、全体の半分、時によって三分の二を占める。したがって、私の読んだ作品の半分ないし三分の二が、それらの諸氏の作品であったわけであり、したがってまた、私をウンザリさせるについても、これらの作品が、あずかって力が有った。誤解なきよう、あらかじめ言って置くが、このように私が言うのは、それらの小説が、小説としてニセモノであったとか、ヘタであったとか、おもしろく無かったとかいうためでは、必ずしも無い。また、個人的な先入感から来る悪意からの見解であるとは私には思われない。とんでもない! 私はむしろ、どちらかと言うと、これらの作者たちに好意を抱いているのだ。それは、最後まで読んでくだされば、わかってもらえる。
 田村泰次郎、舟橋聖一、丹羽文雄、井上友一郎、石川達三、北条誠の諸氏、それから、そういった行き方の数人又は十数人の――世間で文壇の中堅と言われ、事実ある程度まで中堅である――人たちが、そうだ。それから火野葦平や、すこし年よりだが正宗白鳥なども、それに近い。いずれも、ずいぶんたくさん書く。毎月三篇や四篇の作品を発表しないことはないだろう。盛んな人になると、一カ月のうちに短篇、中篇、長篇連載などを合せると十篇ちかくを発表している。随筆やエッセイを普通に書いた上にである。なんともかんとも、隆々たるものである。
 ある種の批評家たちは、これらをアルチザン派といったふうに呼んでいるようだ。主として非難や軽蔑の意をふくめて、そう言っているらしい。なぜなら、そう言われると当人たちが、フクレたりスネたりイコジになったりするからである。これなども、実に「日本」だ。たいがいの外国語が、わが国に入って来ると、たちまち、一方的に肯定的か否定的の意味を背負わされる習慣がある。しかし、もとアルチザンなる語は、かくべつ、否定の意のこもった語では無いように私は知っている。むしろ、正常な是認と、おだやかな職業的誇りこそ含んでおれ、今の批評家たちが使用し、かつ、そう言われた人たちがそう受取っているようなドギツイ非難や軽蔑をこめて使うには無理のある語ではあるまいかと思われる。しかしながら、自分たち一人々々を、自ら神の子孫であると思っている或る種の未開のヤバン人が、人から「お前は人間である」と言われて、激怒したという話を私は思い出すのである。激怒させたくなければ、しばらく、神と呼んでおく以外に方法は無いし、そうしておいても、さしたる不便は無い。アルチザンと呼ばれてフクレる人たちはアルチストと呼んでもらいたいのだから、そう呼ぶがよいし、それでもさしたる不便は起きまい。批評家たちは、ケチをつけたいのだ。ケチをつけられるのに相当する作品もあるし、そうでないものもある。どちらかと言えばケチのつけやすい作品が多い。言ってみれば粗製品のようだからローズものが多い道理だろう。ただその場合でも、他人が盛大に何かをやって景気の良いのを見ると、ややともすればこれを嫉妬してケチをつけたがると言う島国人的特性を文壇人や批評家が非常に豊富に持っているという事も計算の中に入れる必要があるようだ。いずれにしろ、問題は、この人たちの、「質」に在ろう。その質に添って、もっと直接的な言いかたで「お前の作品はつまらん。そのつまらなさかげんと、その理由は、かくかくの所にある」と言うのでなければ、問題は先きへは進まないだろう。
 ところで、私自身はどうかと言えば、この人たちの作品を、必ずしも、つまらんとは思わぬ。しかし、たいして読みたいとも思わぬ。よっぽど暇な時には、読んでもよいが、読まないでもよい。読んでも読まなくても、私の内容にはほとんど増減が起きない。だから、どちらかと言うと、読まない方がよい。
 私の興味と関心は、もっと別な所にある。

          3

 それは、この人たちの作り出す「量」のことだ。
 なにしろ、大変なものである。これほど多量の小説を、相当の永い期間にわたって飽きないで作り出して行く作者がこれほどたくさん生きている現象は、私の知っている限り、どこの国のどんな時代にも無いようである。もちろん日本にも、かつて無かったと思う。インフレのために、多作しなければ人間らしい生活ができないからという理由もあろう。雑誌その他の出版物が多過ぎるために、それらの需要がそうさせるのだとも言えるだろう。また、これらの中の或る人が「どこからどんな注文が来ても、それに応じて、一カ月に七篇や八篇の作品が書けないようでは作家とは言えない」という意味のことを言ったか書いたかしたのを聞いたか読んだかした記憶がある。「節季の忙しい時に、一晩に五十や六十のチョウチンが張れないようじゃ、一人前の職人とは言えねえ」と
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