は、気味の悪い反響が聞えて来ます。しかし、それは一寸でも二寸でも深淵が埋まったという合図であるとは言えないでしょうか。言葉が通じなければ、ドナリ声だけでも、または手真似だけでもして見ようというのです。不快のことなどは当分タナあげにして置くつもりに私はなっているのです。――つまりそれが私が性こりもなくこれを書きつづけるワケの一つです。他にもワケはありますが、それはだんだんにわかってもらうようにしたいと思います。
2
Kさん。
この恐ろしい陥没を埋めようとする努力は、言うまでもなく、本来批評家の仕事です。しかし、今日の日本の批評家たちは、ほとんど、これをしません。逆に陥没を掘り深めたりしている人がある位です。どういうワケでしょうか?
思うに、批評ほど、やさしい仕事はありません。他を見て「お前さんはバカだ」と言ったり、「これこれの作品はナッチョラン!」と言い放てば、やっぱり、それは批評の一種です。同じことを、もっとムヅカシイ、わかりにくい言葉で言う技術を持っていれば、さらによい。誰にしても、何に対してでも、なんとか言えるではありませんか。大学を卒業したり中途退学したりして多少の学問と文筆への習慣を持ち、ほかにする事がなく、ヘラズ口を叩くのが好きな者にとって、批評家になるほど手易く「割の良い」ことは無いわけです。これ以上に、ノンキな商売はありません。しかし、それだけにまた、良い批評をし、良い批評家になるほどむずかしい仕事もないとも言えます。誰にでも、いつでも出来る事がらを、あたりまえにしながら、同時にそれを立派に上等にやる事ほどむづかしいことはないわけですから。それはちょうど、夏になってアイスキャンデイ屋になることが誰にでも出来るやさしい事であり、それだけにまた、すぐれた良いアイスキャンデイ屋になることが、なかなかむづかしい事であるのに似たようなことでしょう。なぜなら、あなたはアイスキャンデイを食って腹痛を起したり、下痢をしたことはありませんか? 私は数回あります。世間には、非良心的に作られ、非良心的に売られたアイスキャンデイを買って食って病気になったり死んでしまったりする子供が、かなりおります。困ったことにアイスキャンデイの中の悪いバクテリヤは目には見えないし、また、凍っているために、そのアイスキャンデイが腐敗しているかいないかが、目でも鼻で
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