рェ心配するのは、それさ。絵は文学とは違う。文学などから切り離して独立させなければ絵は良くならない。人生の意義だとか、人生にわたると言うか、そう言ったふうの物語を持ちこんじゃならない。絵はもっぱら美を、美しいものを描くべきだ。
ワイセ うむ、たしかに、そういう所があるね、これにも。文学が持ちこんである。(言いながら、眼を素描から引き離そうとしても離せない)……しかしだな、この絵には、だな、そう言う所もあるし、なんと言うか……荒っぽすぎる。だけど、……(ブツブツ言った末に、不意に厳粛な顔になったかと思うと、それまでかぶったままでいた山高帽子をぬいで、心臓のところに当て、片足を後ろに引いて、素描に向ってうやうやしく敬礼をする)
ヴィン (それをチラリと見るが、気が立っているので、その意味がわからない)そ、そりゃ、しかしアントン、あなたの言う通りかもわからないけど、僕は何も人生の意義だとか、文学なんかを持ち込もうとしているんじゃないんです。美しいと思うから――美しいと思えるものを描いているだけです。ただ僕には、ホントに人生に生きている人の姿――なんの飾りもなく、しんから生きている――泥だらけ
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