Gにしてある。下手にベッドのある小部屋(ゴーガンの寝室)。上手に、あまり高くない階段があり、階段の上にベッドのある小部屋(ゴッホの寝室)。正面に入口。アトリエの上手前寄りにスタンドがあり、それに水差しや洗面器、コップなどのせてあり、洗面場になっていると同時に簡単な食事の仕度もそこでするらしい。アトリエには中央に寄せた二つのテーブル、四、五の椅子、テーブルの上には壺に差したままカラカラに枯れた向日葵。ゴーガンのイーゼルとヴィンセントのイーゼルが、テーブルの右と左に立っており、ゴーガンのイーゼルには、向日葵を描いているゴッホの肖像の完成に近いのがのっており、ゴッホのイーゼルには、何枚目かの「向日葵」がのっている。壁のわきにはたくさんのカンバスが向う向きに立てかけてある。アトリエも寝室もガランとして貧しい。上手半分がゴッホの領分になっているらしく、床の上にデッサンの紙やチューブやボロ切れがメチャメチャにちらかり、階段には本が開いたまま投げ出してあったり、二階の寝室もひどく取りちらしてある。それに較べるとゴーガンの領分の下手半分と寝室はキチンと整理してある。その対照が一目でハッキリわかる。二つの窓から日暮れ前の広場の冬ざれた樹立が見える。――ゴーガンが、テーブルの下手の椅子にダラリとかけて、三角パンをムシャムシャやりながら、気のない風に膝の上のスケッチ・ブロックにクレヨンを走らせている。中央の床の上で、十七、八の女ラシェルが、すぐ裏にあるレストランから聞えて来る「ファランドール舞曲」の笛の音に合せて、手振り足振りスカートをなびかせて、自己流に踊っている。乳房のへんまで切りさげた派手なブラウスに黒いスカートの、言うこともすることもひどく軽くて、五フラン屋の商売女じみた所はなく、すこし馬鹿な小妖精じみた感じの女。……曲が終る。
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ラシ フウ、くたびれた!
ゴー うまいじゃないか。
ラシ だって、あたしの村では、春の祭りには毎年これを踊るんだもの。アルルの、このへんでも踊るわ。みんなで広場に集ってね。(ドサンと椅子の一つに掛けて)そんでも、こっちい来て、お店に出るようになったら、もう駄目だな。足のさばきが以前のように早く出来ない。
ゴー 毎晩毎晩、あんまり足をさばくからな。
ラシ いやあだ!
ゴー あの店に来て、君、どれくらいになる?
ラシ この冬でそろそろ一年になるわ。
ゴー どうだ、田舎に居るのと、今の商売と、どっちが良い?
ラシ そりゃ、今の方が良いわ。田舎に居ると、おっ母さんには始終ガミガミ言われるし、綺麗な着物一つ着られるじゃなし、第一食物があんた、肉なんぞ一週間にせいぜい一度、チーズもない時があるのよ。ここだと、肉は毎日、お客さんが葡萄酒は飲ましてくれる――
ゴー 飲ましてくれる代りにゃ、それぞれチャンとお相手をつかまつらなきゃなるまい?
ラシ それだって、暮しを立てる仕事だと思やあ、それほどつらくもないわよ。だって、どこに居たって、どっちみち私たちみたいな身分では、自分の身体を使って食べて行かなきゃならないもの。田舎では私もおっ母さんも大百姓の家へ日雇いに出て働いていたのよ。同じことじゃない?
ゴー ふん。
ラシ そりゃ、今のお店、時には、つらくないことはないわ。でも仕方がないでしょう? だから私、なんにも考えないことにしているの。馬鹿だと思ってんの、人間なんて。自分もお客さんも。だから、いっそ面白いわ。ただ、兵隊のお客さんだけは嫌だわね、乱暴で。
ゴー また、よく来るなあ、スワーヴ兵の奴ら。中尉のミリエなんぞ近ごろ来るかね?
ラシ よんべも来たわよ。しかし、あの人は、ローザのお客よ。あたいは、よんべは、お茶引いちゃった。
ゴー ははん、そこで今日はお前、ヴィンセントを呼び出しに御出張と来たな?
ラシ そういう訳ではないのよ。おかみさんに頼まれて、駅んとこまで買物があったんで、どうなすってるかと思ってチョット寄って見たんだわ。
ゴー しかし呼び出すにしたって、エサがこんな二つや三つの三角パンくらいじゃ、ごめんだぞ。ゴッホが行くと言ったって、俺がやらない。
ラシ エサなんて、そんなつもりじゃなくってよ。あんた方、絵ばかり描いていて、一日中なんにも食べないことがよくあるんでしょ? 可哀そうだと思って、私のおこづかいで買って来てあげたのよ。……だけど、フウ・ルウは、どこへ行ったの、ずいぶん遅いわね?
ゴー そら見ろ、ヴィンセントを待ってるくせに。ハハ、なに、もうすぐ帰って来るよ。だが、どうしてお前たちは、あの男のことをフウ・ルウなんて言うんだい?
ラシ 町の人がみんなそう言ってるのよ。だって、そうでしょ、あの人と来たら夏の間じゅう、七つ道具をかついで、熱病やみの
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