ノなっちまって、ポイポイと貸しちゃ、それなりけりで、代金は払っちゃくれない、そのカタにわけのわからない絵など掴まされてばっかり居なさるんだからね。……コーヒーはここであがるんですか、奥にしますか?
タン そうさな、ここでもらうかな。……
おかみ でも、飲んでいる所へ絵かきさんでも来ると、そちらへも出さなきゃならないんだから――ホントに、いくらあんた金が有ったって、こんな調子だと、たまったもんじゃありませんよ。また、絵かきなんて言う人たちは、皆が皆どうしてこう、揃いも揃って、いけずうずうしいと言うか自分勝手と言うか、気ちがいじみて、グウタラなんだろう。因果なことにその絵かきさんが、家のお客なんだからねえ。
タン じゃ奥へ行って飲むか。
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言っている所へ、三人の人が通りの方から来る。エミール・ベルナールとロートレックとベルト・モリソウ。ベルナールは、温和な美貌の青年で絵具箱を肩にさげている。ロートレックは貴族的な黒の礼服を着た小男で、それほどの年でもないのに、一見五十過ぎに見える。ベルト・モリソウは富裕な夫を持った四十四、五歳の女画家で、ハデで上品な身なりと美しい顔のために、三十歳ぐらいにしか見えない。――三人はこの店に入って来かけて、飾窓の前でチョット立ち止る。ロートレックが、ステッキで、中の絵の一つを指している。
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おかみ そら、おいでだ。ロートレックさんと、ベルナールさんと、あの奥さんは何とか言ったっけ――
タン モリソウの奥さんだよ、ベルト・モリソウ。綺麗な絵を描く人だ。……(言っている内に三人が店に入って来る。タンギイその方へ寄って行き)これは、いらっしゃいまし、モリソウの奥さん、良いお天気でございますな。
ベルト (やわらかな会釈をして)モンマルトルの丘の上から見ると、空がルリを溶かしたように見えてよ小父さん。パリは今頃が一番ですわね。
ロート (酔っている。タンギイに)やい、詐欺師! また、うまくやりやがったな。どうして巻きあげた、あれは?
タン (相手の口の悪いのには馴れている。微笑しつつ)なんですかな、ロートレックさん?
ロート あのマルチニックさ、ゴーガンの。あれは小さいけどポールが離したがらないでいた奴だ。
タン 良いもんでしょうかね?
ロート へっへへ
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