Jドミュームの混った白で……そいからオリーヴ、ここにオークル。そうさ、着物はブルウ・ブルッスであったり、赤やこげ茶もあるが……遠くから見ると黒く見える。ボリナーヂュでも黒かった。……黒の中にはすべての色が在る。
シィヌ あたしの黒のブラウズねえ、今のはもう痛んじゃってるから、入院するまでに新しいのを一枚こさえてくれない?
ヴィン うん。……こさえては、いけない。(返事ではない)見える通りに、描くんだ。……天使を見たこともないのに、天使を描けるものか。……(夢中で描き進む)
シィヌ (そういうことには馴れているので、勝手にしゃべる)だって、あたし、今度のお産では、もしかすると死ぬような気がするの。さんざん無理をした身体ですもん。病院の先生も、今度はちょっとむずかしいかも知れないって。
ヴィン え、死ぬ?(ヒョイと呼びさまされて)誰が――?
シィヌ ですからさ、ブラウズだけでも新しくなにしたいのよ。せめて死ぬ時ぐらい身ぎれいにしていたいじゃないの?
ヴィン いや、そんな君、そんな、シィヌ――どうしてそんなこと考えるんだ?(シイヌの所へ行き、肩をつかむ)――僕と言うものが居る。たとえ、どんなことがあっても――
シィヌ だってさ、あたしなんぞ、いっそ、その方が良いかも知れないんだ。小さい時から、腹一杯食べたこともない、大きくなると皿洗いや洗濯で骨がメリメリ言うほど働きづめ、そいからモデルになったり、ルノウの小母さんに引きまわしてもらったりしている内に五人も子供が生れちゃってさ。それも一人一人父親が誰だか、わかりもしない。……(自分で自分の話に悲しくなって涙を流しながら)せめて、今度の子が、あんたの子だったら、私、よかったと思うけど。
ヴィン いいよ、いいよ、そんなこと、気にしないで良い。生れて来たら、僕は自分のホントの子として育てて行くよ。心配しないでいい、大丈夫だ、ね、シィヌ! (抱きしめて、頬に激しくキスする)僕は君が好きなんだ!
シィヌ ううん。(おとなしく、されるままになりながら)ちがう。あんたはホントは私が好きじゃないのよ。あんたは、やっぱり、その、よそへお嫁に行っちまったケイさんとか言うイトコの人に惚れてんだわ。
ヴィン ケイのことは言わないでくれ。
シィヌ そらごらんなさい。そうなのよ。
ヴィン そんなことはないといったら。その証拠にこうして君と一緒になって暮
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