設備をもっとチャンとして、今度の爆発みたいなことの起きないようにしてくれと言うと、その金がない。それだけの利潤がないし、新株を売り出すことも出来ない。……では、せめて、爆発で生き埋めになった坑夫たちの死体発掘だけでもしてくれと私は言った。……そうです、私もなんとかして、そうしたいと思って重役や技師たちとも、さんざん相談して見たが、どうしても、それが出来ない。会社ではあの坑道は再開する意志がない。して見ても生産費だけの利益があがらない。しかも死体を発掘するには百人の坑夫で一カ月かかる。その費用は誰が出します? 会社にはそんな力はない。しかもそうして見ても、結局なんになる? 坑夫たちの死体を、あの墓場から、この墓場へ移すだけじゃないか?
デニス (低く、歯の間から)ちきしょう!
ヴィン ……バリンゲルさんも、悲しそうな、腹を立てた顔をして……言った。キリのない、絶望的な悪循環だ。わしは、もう何千回もこいつを回って来た。坑夫が悪いのでも、会社が悪いのでも、石炭が悪いのでもない。悪いのは出炭量が少な過ぎることだ。そんな炭坑からまで無理に石炭を掘らなきゃならんと言うことだ。そういう世の中であると言うことだ。しかたがない。……世の中をとがめて見ても、どうなりますか? すると、こんなみじめな有様については、神さまに責任があるんじゃないでしょうかね? わしが、カトリック教から、無神論者になってしまったのは、そのためです。神さまは、御自分でこんな状態を作り出して置いて、その中で人間が虫ケラのように死んで行くのを、見ておいでになるんだ――
ヨング 黙りたまい! 恐ろしいことを言う。もう黙りなさい、ゴッホ君! いいや、そんな恐ろしい涜神の言葉を吐くとは、仮りにもベルギイ福音伝道教会の宣教師ともあろう者が――
ヴィン ……(びっくりしてヨングを見ていたが、相手がなぜ怒り出したかを理解しないで)はい。……それで、そう言うわけで、坑夫たちがストライキをすぐにやめて、入坑して仕事を始めてくれなければ、会社では仕方がないから炭坑は永久に閉鎖する。それで、もう既に、レール、ボイラア、炭車、昇降機なぞ、機材の全部を南フランスの坑山会社に売り渡す交渉まで始めている。
ヴェルネ え? そ、そりゃ、ホントかね先生?
ヴィン ホントだ。
デニス 人殺しめ! 畜生っ! だから俺あ言ったんだ――
ヴェルネ まあ待
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