ねえ。居らっしゃっても、俺たちはウジ虫ですからね、神さまは、あっちを向いて、肥え太って、鼻あつまんで――へへ、臭えからね俺たちは――そいで、俺たちが生きようが死のうが御存じねえらしいんでね。
ヨング 恐ろしいことを言う。ふむ。――涜神と言うことをあんた御存じか?
デニス とくしんと言うと――
ヴェルネ おいデニス、もう、いいかげんにしねえか!(ヨングに)牧師さん、この男は肺病でしてね、もう始終イライラして、いろんなくだらねえことばかり口走る癖がありまして、どうか、お聞きのがしくだすって――
デニス 心配してくれなくてもいいよ、とっつあん。俺あ正気で言ってるんだ。だってそうじゃねえか、神さまがチャンとして居るんだったら、今の俺たちみてえな、ウジ虫以下のこんな有様を、どうして黙って見ていらっしゃることが出来るんだね?
ヨング ふむ。すると、そう言うことをゴッホ君が言って聞かせたことがあるんだな?
ヴェルネ いいえ、そんなあなた、ここの先生は、そりゃもう福音通りにですな、エス・キリストさまと同じように自分が成って、この――
ヨング なに? キリストと自分が同じだと?
ヴェルネ いえ、そうじゃねえ! そうじゃねえんです! ここの先生は、つまり、わしらのことを心配して下すってです、今日なども、わざわざ、会社の支配人の所へ掛け合いに行ってくださって、この――(このヴェルネの言葉の間に、先程ハンナとアンリが出て行った時に開け放されたままになっている扉の、暗いガクブチの中に、足音もさせないで戻って来たヴィンセント・ヴァン・ゴッホが、しょんぼりと立つ。皆それに気づかぬ)
ヨング やっぱり、それでは、あんた方の先頭に立ってナニしているんだな?
ヴェルネ いいえ、そんな、そんなことあねえです。ただ、わしらのことを、この――
デニス わしらのことを会社に売りつけようとなすっているんでさあ。へへ。
ヨング (相手の言うことは聞かない)ふむ。……キリストと同じ……
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その間もヴィンセントは、絶望し疲れ切った姿でボンヤリ立っている。帽子はかむらず、ヨレヨレのナッパ服に、ブリキを巻いて修繕したサボ。ひどく痩せた青い顔。……ヨングの声で、眼の色が動いて、ユックリそちらを見るがそこに居るのが誰であるかよくわからない。
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