刀@そ、そ、それはテオが俺のことを愛して、俺のためを思ってそう言うんだ。それが君にはわからんのだ。君はそれを反対の意味にしか取れない。そう言う冷血漢だ君は!
ゴー 現に、君の絵が売れるようになればと言うが、一枚でも売れたことがあるかね? ない。今後も売れる筈はない。つまりテオはボロクズを背負いこんでいるだけだ。それをテオは知ってるよ。知ってるけど、頭の少しおかしい兄を落ちつかせるための気休めに共同出資だなんて言っているのさ。そんなことをちっとも知らないで、ただいい気になっているのが君だ。いや、ホントは君はそいつを知っている。知っても、今のようにしているのが自分が得をするから、頬っかむりをしているだけだ。実は腹の底では気がとがめているんだ。でなければ、僕からこんなこといわれてそんなに怒るわけはない。いや、俺がこんなことを言うのは、だからけしからんと君を非難してるんじゃないぜ。ただ自分のことはタナにあげて人のことばかり君が言うからさ。人間は結局エゴイストだ。自分を中心に考える以外にない。人をギセイにするのは、やむを得ないさ。弱虫は人をギセイにしていることを認めるだけの勇気がないもんだから、愛だの涙だのと持って来て自分でごまかそうとして――
ヴィン だ、だ、黙れっ!(テーブルの上の、あらかた空っぽになったアブサンの瓶を掴んでテーブルにガシャンと叩きつける。瓶は割れて、そのへんに飛び散る)黙らないと――!
ゴー ……(ヴィンセントの調子から殺気のようなものを感じて、いっぺんに黙ってしまう)
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間――いつの間にか、室内はすっかり暗くなっている。まだ少し明るい窓の外の広場にガス燈がポツリポツリともっている。
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ヴィンセントの声 (背後から。死んだように静かな室内に向って、はじめはほとんど聞えないくらいに低くつぶやくように)いやいや、テオが、あのテオがそんなふうに思っている筈がない。テオは俺を愛している! 俺の絵を良い絵だと思ってくれている! 結婚のじゃまになるなぞと俺のことを思っている筈はない! そんな筈はない! それならば今まで、何かそんな所を俺に示している筈だ。愚痴をこぼしたと言うのは、テオの弱い性質のために、つい、そう言ったのだ。それもキット俺のために良かれと思って、俺のことを
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