ゥら、例えば――自分のことを言ってなんだけど、僕がね、ベルギイの炭坑で宣教師をしていた時、炭坑が爆発したことがある。死人がたくさん出た。一人の男が死にかかっていた。会社では、どうせどんな手当をしても死ぬものだから打っちゃって置けと言うんだ。僕はその男を見ていて、もしキリストだったら、どうするだろうと考えた。そしてね、僕はその男を自分の室にかついで来て、疵を洗ってやって、つきっきりで看病した。毎日湯に入れてやった。その男が恢復するにつれて、僕は餓えてきた。一カ月して男は助かって、僕の方は病人みたいになった。そしてその男は今ではスッカリ丈夫になって、毎日曜日僕のために神に祈っている。……いや自慢するためにこんな話をしてるんじゃないよ。それに僕はとうの昔に神やキリストを見失っている人間だからね。ただ、そういうこともあると言っているんだ。その男が僕のために、死ぬまで祈ってくれていると言う点なんだ。神だか何だか俺は知らない。しかし、もしそれを神だと言えば言えるんじゃないだろうか? すれば、人間は逃げないで、このままでやって行っても救われるメドは有るんじゃないだろうか?
ゴー ……(先程から、自分の全く持っていないものを持っている人間に対する驚異と感嘆のために、アブサンを飲むのをやめて、ほとんど厳粛な顔になってヴィンセントを見つめていたが)まったく、君と言う男は、おかしな男だ! どうも、うむ。聖なる魂か。
ヴィン 聖なる――? またからかうのかね?
ゴー からかっているように見えるかね? フフ、まったく君という男はおかしな人間だなあ。どうだい、明日僕に君の肖像を描かしてくれないか?
ヴィン 僕の? ああ、いいとも。そいでね、僕がここにこの家を借りて、君を呼んでこうしてさ、そして、もっと貧乏で世間から認められない画家たちをたくさん呼び集めて、仲よく共同生活をしながら製作して行こうと思ったのも、結局それなんだよ。俺はやっぱり人間を信ずる。逃げ出そうとは思わない。貧しい心とあたたかい胸を持った人々を捨てない。どんなに苦しくとも、俺はここで、やる!(ドサン、ドサンとテーブルを叩く)
ゴー おっと、そんな、なぐりつけるのは、よせ。酒がこぼれる。(コップを取って飲む。以下、話の間に、ついでは飲んで、二人の酔いは深くなる。ヴィンセントよりもゴーガンの方がずっと酒に強いだけでなく、酔い方も違う
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